【まつり/藤井風】コード進行と分析

2022年3月20日にMVが公開された、藤井風さんの2ndアルバム「LOVE ALL SERVE ALL」の収録曲。
今回は、和の雰囲気と藤井風さんらしさが入り混じったハイブリッドな楽曲「まつり」を分析していきます!
ここからの内容は、er-music編集部の独自の見解になります。 読者様との解釈に相違がある場合も、考え方の一例、また娯楽の一環としてご覧ください。 また、ダイアトニックコードの理解があるとより楽しめるかと思います。 >>ダイアトニックコードについて

全体を通して

冒頭のはんなりとしたピアノや、イントロの篠笛など、和の雰囲気が漂う楽曲。
リズムは最近流行りのトラップビート。コード進行は全体的に繰り返しが多く、ミニマルな構成になっていますが、藤井風さんらしくテンションノートやノンダイアトニックコードで変化を付けたジャジーなアレンジとなっています。
また、随所で炸裂するブルーノートを交えたフェイク(メリスマ)や、二番以降のロックサウンドなど、一言では言い表すことのできない全く新しいジャンルの楽曲といえます。

楽曲全体のピッチが低く設定されているのも大きな特徴のひとつ。一般的な楽曲ではラの音が440Hzから442Hzになっているのが基本ですが、「まつり」の場合は432Hzとなっています。

イントロ

まつり_イントロ楽譜

1・2小節目

冒頭から流れる印象的なピアノのフレーズ。
このフレーズは二回出てくるレ♯を除いてすべての音が、Eから始まるヨナ抜き長音階(あるいはC#から始まるニロ抜き短音階)で構成されており、和を感じさせます。

ヨナ抜き音階・ニロ抜き音階は雅楽にも使われている音階で、日本的な響きをもっていると言えます。
ヨナ抜き音階は四番目と七番目の音を抜くことからこの名前が付いており、この楽曲でいうと、「Eメジャースケールからラとレ♯を抜いた音階」がEのヨナ抜き長音階ということになります。(同様に、ニロ抜き音階は二番目と六番目を抜く、という意味です。)

ここでは二回だけ七番目のレ♯が使われていますが、四番目のラは一切使われておらず、十分に日本的なフレーズになっています。

この部分の解釈
日本の国歌でおなじみの「君が代」においてもヨナ抜き長音階(ニロ抜き短音階)が使われています。
「まつり」のイントロと同様、ほんの少しだけ七番目の音が使われていますが、四番目の音にいたっては一切使われていません。

3~6小節目

コードF♯m7→G♯m7→B/C♯→C♯7(♭9)→F♯m7→G♯7(♯9,♭13)→B/C♯→C♯7(♭9)
ディグリ ー表記Ⅱm7→Ⅲm7→Ⅴ/Ⅵ→→Ⅵ7(♭9)→Ⅱm7→Ⅲ7(♯9,♭13)→Ⅴ/Ⅵ→Ⅵ7(♭9)

篠笛の旋律が印象的なイントロ。3~6小節目までは同じメロディを三回繰り返しています。
この篠笛のフレーズは一回出てくるラを除いて、ヨナ抜き長音階で構成されています。また、第二音であるシの音で終わっていることでさらに日本的な雰囲気になっています。

4小節目ではセカンダリードミナントであるC♯7(♭9)が出てきています。またB/C♯はC♯7(♭9)に対するsus4コードのような、クッションの役割を担っているといえます。
この楽曲は3~4小節目のF♯m7→G♯m7→B/C♯→C♯7を基本に、少しづつ変化を加えながら展開されていきます。

5小節目は、3小節目でG♯m7だったコードがセカンダリードミナントのG♯7(♯9,♭13)に変化しています。G♯が7コードになることによって、よりB/C♯への進行感が強くなっていることに加え、オルタードテンションによる憂いが楽曲を彩っています。

この部分の解釈
ヨナ抜き長音階の第二音(キーCの場合、レの音)で終わることで、より雅楽の雰囲気や日本民謡感が出ています。
理由としては、ヨナ抜き長音階が使われている雅楽は基本的に第二音で始まり第二音で終わることや、日本民謡や童謡は第二音で終わることが多いためだと考えられます。
西洋音楽における第一音(キーCの場合、ド)で終止する考え方とは違い、第二音で終わるという不完全燃焼感が、独特で日本的な響きを生み出しているのかもしれません。

7~10小節目

コードF♯m7→B7→Eadd9→A♯m7(♭5)→AM7→G♯7(♭13)→B/C♯→C♯7(♭9)
ディグリ ー表記Ⅱm7→Ⅴ7→Ⅰadd9→♯Ⅳm7(♭5)→ⅣM7→Ⅲ7(♭13)→Ⅴ/Ⅵ→Ⅵ7(♭9)

7小節目から8小節目頭のF♯m7→B7→Eadd9はツーファイブワンの動き。
8小節目のA♯m7(♭5)はAM7のルートが半音上がったコードで、9小節目のAM7へ滑らかに下降するベースラインを作り出しています。
そこからはG♯7B/C♯→C♯7(♭9)と今までの流れに戻ります。

Aメロ

まつり_楽譜Aメロ

1~4小節目

コードF♯m7→G♯m7→B/C♯→C♯7(♭9)→F♯m7→G♯7(♯9,♭13)→B/C♯→C♯7(♯9)→C♯7(♭9)
ディグリ ー表記Ⅱm7→Ⅲm7→Ⅴ/Ⅵ→Ⅵ7(♭9)→Ⅱm7→Ⅲ7(♯9,♭13)→Ⅴ/Ⅵ→Ⅵ7(♯9)→Ⅵ7(♭9)

基本的なコード進行はイントロと同様。
ピアノの左手のスタッカートが印象的で、このフレーズがAメロのタイトなグルーヴの一因となっています。

1小節~6小節までは同じような譜割りのモチーフを繰り返すようなメロディになっています。

5~8小節目

コードF♯m7→B7→Eadd9→A♯m7(♭5)→AM7→G♯7(♭9)→F♯m7→G♯7(♭9)
ディグリ ー表記Ⅱm7→Ⅴ7→Ⅰadd9→♯Ⅳm7(♭5)→ⅣM7→Ⅲ7(♭9)→Ⅱm7→Ⅲ7(♭9)

7小節目から8小節目にかけてのメロディ「今ならすべて受け止めるから」の部分は「タッタカタッタカタッタカタッタータ」のリズムになっており、お囃子の太鼓などを彷彿とさせる譜割りになっていると感じます。

Aメロ2

まつり_Aメロ2楽譜

1~8小節目

コード進行は細かいテンションの変化を除いてAメロと同様。
4小節目や6小節目などでは、一回目になかったブルーノートを交えたフェイク(メリスマ)が入ってきます。これによって一気にソウルな雰囲気を感じさせます。
また、7小節目のメロディも一か所だけブルーノートに変化しています。

この部分の解釈
ブルーノートスケールとは、メジャースケールの第三音、第五音、第七音を半音下げた音階のこと。
この楽曲では度々、Eメジャースケールから見て本来「ソ♯」である第三音を、半音下げて「ソ」の音で使っています。
これをスパイスのように巧く使うことよって、和を感じさせる「まつり」という楽曲に、ブルースやジャズのような哀愁漂う雰囲気を織り交ぜています。

Bメロ

まつり_Bメロ楽譜

1~4小節目

コードF♯m7→G♯7(♯9)→G♯7(♭9)→B/C♯→A♯m7(♭5)
ディグリ ー表記Ⅱm7→Ⅲ7(♯9)→Ⅲ7(♭9)→Ⅴ/Ⅵ→♯Ⅳm7(♭5)

大まかなコード進行の流れは今までと似ていますが、Bメロでは一小節ごとにコードが変わる展開になっています。
イントロやAメロに比べてコードチェンジが緩やかになったことで、楽曲の雰囲気やスピード感も緩やかになり、落ち着いた感じがします。

1~2小節目、5~7小節目の「花まつり、夏祭り」の部分はヨナ抜き長音階になっており、またイントロの篠笛と同様、第二音のシで終わっていることでより雅楽感や日本民謡感が出ています。

5~8小節目

コードF♯m7→D9→B/C♯→C♯7(♭9,♭13)
ディグリ ー表記Ⅱm7→♭Ⅶ9→Ⅴ/Ⅵ→Ⅵ7(♭9,♭13)

7~8小節目からサビにかけての「その閉じた心 今こじ開けな あっけーな ラッセーラ」のメロディはすべてヨナ抜き長音階で構成されています。
説明不要かもしれませんが、「ラッセーラ」は青森ねぶた祭の掛け声。「こじ開けな」から「ラッセーラ」に持っていくセンスは、藤井風さんらしい言葉遊びですね。

6小節目のD9は同主短調からのモーダルインターチェンジコードで、サブドミナントマイナーの機能を持っています。

サビ

まつり_サビ楽譜

1~4小節目

コードF♯m7→G♯m7→C♯m7→G♯m7→C♯7(♭9)→F♯m7→G♯7(♯9,♭13)→B/C♯→G♯m7→C♯7(♭9)
ディグリ ー表記Ⅱm7→Ⅲm7→Ⅵm7→Ⅲm7→Ⅵ7(♭9)→Ⅱm7→Ⅲ7(♯9,♭13)→Ⅴ/Ⅵ→Ⅲm7→Ⅵ7(♭9)

「まつり まつり」と二度繰り返す部分が、『さくらさくら』などの日本古謡や『チューリップ』の「さいたさいた」のような童謡に通ずるものがあり、古き良き日本の歌に影響を受けていることがわかります。
4小節目までのメロディは、一音を除いてすべての音がヨナ抜き長音階で構成されています。

基本的なコード進行は変わりませんが、1~2小節、3~4小節、5~6小節目を跨ぐコードチェンジが8分のシンコペーションになっており、サビに躍動感が生まれています。

5~8小節目

コードF♯m7→B7→Eadd9→A♯m7(♭5)→AM7→G♯m7→F♯m7→G♯7(♭9)
ディグリ ー表記Ⅱm7→Ⅴ7→Ⅰadd9→♯Ⅳm7(♭5)→ⅣM7→Ⅲm7→Ⅱm7→Ⅲ7(♭9)

5~6小節目の「比べるものは何もない 勝ちや負けとか一切ない」と、6小節~8小節目にかけての「ない ない」はそれぞれ同じメロディの繰り返しで、耳に残りやすいものになっています。
8小節目ではブルーノートを交えたフェイク(メリスマ)によってクールに締めくくられています。

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