【アポトーシス/official髭男dism】コード進行と分析

Apple Musicのドルビーアトモスによる空間オーディオのCMで見かける、official髭男dismの『アポトーシス』。

えるるん
AppleMusicでは、現在新しい音楽体験「空間オーディオ」を追加料金なしで利用することができます。
詳しくないので表現は難しいですが、「プログラムされた細胞死」を意味する「アポトーシス」という言葉。
避けられない運命のような悲しくも、力強いメッセージ性を感じさせますね。
今回は、この楽曲のコードから作曲者の意図を分析してみましょう。
ここからの内容は、er-music編集部の独自の見解になります。
読者様との解釈に相違がある場合も、考え方の一例、娯楽の一環としてご覧ください。
また、ダイアトニックコードの理解があるとより楽しめるかと思います。
ダイアトニックコードとは?

Aメロ(key=A)

楽譜Aメロ

1〜2小節目(C#7♭9→F#m7)

AメロはキーAですので、C#7♭9はノンダイアトニックコードであることがわかります。

このコードの正体はセカンダリードミナントで、次のF#m7を一時的なトニックと見立ててドミナントコードに置き換えたものです。

2〜3小節目

2小節目『Em7→A7』は3小節目の『DM7』に着地するためのツーファイブワン進行です。

要は、先程のC#同様、A7がセカンダリードミナントとなっています。

手前のEm7は、セカンダリードミナントに対するⅡm7に該当するので、リレイテッドⅡmと言われてます。

3小節目(E/D)

ここでは、『E/D』というオンコード(分数コード)が使われています。

コードはEで、ベース音のみDになっている状態です。

この部分の解釈
E/D、度数でいう『Ⅴ/Ⅳ』コードはJpopで頻繁に使われるコードで、特にバラードソングでよく見るイメージがあります。
この曲では、ベース音がDに停滞しているので次のC#への接続が滑らかになります。
ベースの動きも少なく、バラードにあった落ち着いた印象を感じさせます。

6小節目

ここもオンコード『F#m7/E』が使われています。

先ほどと同様に、次のコードDM7への接続をスムーズにする意味合いでベース音だけを下降させているのだと考えられます。

16小節目

一見今まで見てきたC#(セカンダリードミナント)と同じようですが、ここでは『C#7sus4→C#7』となっています。

実は、ここを起点にキーがAからF#へ転調します。

転調のきっかけとして機能してるコードであることが分かりますね。

えるるん
キーAの平行短調であるF#mの同主調に転調しているよ!
この部分の解釈
セカンダリードミナントは、次のコードを一時的なトニックと見立ててドミナントカードに変換するものでした。
ですが、セカンダリードミナントに今回のようなsus4を加えて、本当に転調してしまうことも可能です。
C#7sus4→C#7のコード進行では、4度(F#).長3度(F)の一音が変化しています。
この後は次のトニックF#からみたルートとM7の音になります。
M7の音はルートに戻りたい力があるので、自然にF#に解決することができるのです。

Bメロ(key=D#m)

楽譜Bメロ

2〜3小節目(A#m7→A7→G#m7)

ここでの『A#m7→A7→G#m7』の進行を見ていきましょう。

ベースが半音で下降しているのがわかります。

滑らかな半音下降を作るため、ノンダイアトニックコードA7が使われています。

このコードは裏コードと言われるもので、次のG#m7に対するセカンダリードミナントD#7の代理コードと解釈することができます。

3〜4小節目(A#7♭9→D#M9)

『A#7♭9』はセカンダリードミナントと見ることができますが、『D#M9』はなんでしょう。

ここは、A#7♭9のコードを起点にキーD#(キーE♭)に転調していると考えられます。

その後のコード進行を見ると、ほとんどキーE♭のダイアトニックコードで構成されていることがわかりますね。

えるるん
ここでも、キーD#mの同主調(E♭)へ転調しているね!
D#とE♭は異名同音。ここでは、楽譜の上で区別しているだけだよ!
この部分の雑談
A#7にテンション♭9を加えた意味合いを考えていきましょう。
一般的にドミナントコードの♭9の音は、マイナーキーへの着地へ使われることが多いです。
マイナースケールに含まれる音ですし、マイナーコードへのドミナントモーションは単なるドミナント7thだと強制力が乏しいからです。
では、なぜメジャーキーに解決するのに♭9を利用するのでしょうか。
個人的な解釈になりますが、ここでの転調はサビのキーを決定づける重要な部分です。明確に「転調するぞ!サビくるぞ!」と明示する意図があるのがもしれません。
だから強烈な違和感のある○7♭9のコードを利用しているように感じました。
(ルート音との半音のぶつかりに加えてトライトーンがあるため強烈な違和感を感じる。)
さらに、ドミナントの♭9はトニックの5度に半音で着地するので、コード進行の上での強制力がさらに上がります。

4〜5小節目(B♭7♭9→EM7)

『B♭7♭9→EM7』という進行ですが、B♭はA#の異名同音なので、3小節目と同じですね。

ただここでは、すでにE♭に転調しているので、セカンダリードミナントではなく、通常のドミナントコードになります。

7小節目(BM7)

『BM7』はBメロ前半でも出現していますが、全く解釈の異なるコードです。

前半はD#mキーであるのに対し、7小節目はE♭に転調しているからです。

そのため意味合いこそ変わりますが解釈は簡単で、キーE♭m(D#m)のコードを一時的に借用していると考えることができます。

これをモーダルインターチェンジと呼ばれる手法です。

8小節目(Fm7/B♭)

『Fm7/B♭』は、B♭7sus4と似た響きのコードのため、ドミナントであることがわかります。

E♭へ解決しようとしているようです。

この部分の解釈
ここまで♭9や、モーダルインターチェンジなどが多く違和感のある音が多かったのですが、ここ8小節目でやっと落ち着きを取り戻し、完全にE♭へ落ち着くような雰囲気を感じました。

サビ(key=E♭)

楽譜サビ

楽譜サビ

2〜3小節目(Dm7-5→G7→Cm7)

ここはofficial髭男dismも御用達の定番コードです。

Cm7へ解決するためのマイナーツーファイブワンの進行になっています。

分解してみればG7はセカンダリードミナントと言えます。

3〜4小節目(B♭m7→E♭7/A→A♭M7)

B♭m7→E♭7/A→A♭M7』のコード進行はA♭M7へ着地するためのコード進行と考えると理解しやすいでしょう。

スムーズな進行を取るために、A♭M7を一時的なトニックとみたててツーファイブワンの進行を取ろうとしているのです。

E♭7のベース音をAにすることで、強烈な違和感とともに、A♭へ落ち着きたい力が一層増します。

この部分の解釈
サビでは、ツーファイブワンを多用した進行が頻出します。
コード進行に推進力が生まれたおかげで、主人公の歩きがいくらか軽やかになり、少しだけ心の霧が晴れたようにも感じました。

4小節目(G♭m6)

A♭M7からの半音下降を作るためにこのコードをチョイスしているのだと考えられます。

理論に結びつけるならば、E♭ロクリアンスケールからの借用してきたコードで、モーダルインターチェンジと言われるものです。

5小節目(B→B♭→B♭7/D)

『B』はE♭mキーからのモーダルインターチェンジ

『B♭』はそのままドミナントで、『B♭/D』は次のE♭への接続を滑らかにするためベースを変えたコードです。(B♭の第一転回系)

11~12小節目(Fm7→Bdim→Cm)

ここのコード進行は、Cmへ滑らかに着地するためのものでしょう。

ここでの『Bdim』の正体は、Cmに対するセカンダリードミナント「G7」の代理コードです。

G7と同様に、Cmに進みたくなる力が働いています。

12小節目(Am7-5)

『Am7-5』は、A♭M7のベース音が半音下がった形です。

トニックE♭の代理コードとしても考えることができて、この後Ⅳ(A♭)へ進行するために使われることが多いです。

14小節目(A♭m→B♭m)

ここもモーダルインターチェンジで解釈できます。

E♭mキーのⅣm(A♭m)→Ⅴm(B♭m)に該当するからです。

15小節目(B→C#)

先ほどと同様モーダルインターチェンジです。

E♭mキーの♭Ⅵ(C♭)→♭Ⅶ(D♭)と進んでいます。

*楽譜と表記がことなっていますが、同じ音です。

この部分の解釈
『♭Ⅵ→♭Ⅵ→Ⅰ』の進行は、ニンテンドーマリオのゲームクリアの時に流れるBGMでも使われています。
メジャーコードでつながっていること、さらにはマイナーキーのコードから当初のメジャートニックへ着地することで、底から這い上がってくるような力強さを感じることができます。
ベースの動きを見ていると、13小節目のFmから音が徐々に上がっていくのがわかります。
Fm→Gm→A♭m→B♭m→C♭→D♭→E
のように、モーダルインターチェンジを使うことでエンディングに相応しい希望感を感じることができます。

まとめ:歌詞の解釈も深めていこう!

今回は、コード進行を中心に分析を行ってきましたが、official髭男dismさんのすばらしさはその作詞能力にもあります。

以下にご紹介させていただく、ナナメblog様では歌詞のアポトーシスを歌詞の観点から分析・解釈をされています。
非常に納得できる内容となっていますので、ぜひご覧ください。

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