今回は、wacciの『恋だろ』を分析していきます。
この曲の世界観表現のヒントをコード進行から紐解いていきましょう。
全体を通して
緩やかなテンポで切なさもあり、wacciのヒット曲「別の人の彼女になったよ」を彷彿とさせますが、比較的明るくて優しさ溢れる楽曲です。
また、イントロのピアノバッキングが印象的で、穏やかさが感じられます。
「別の人の彼女になったよ」では、力強いギターバッキングが特徴だったので、こういった部分の違いも大きくあるでしょう。
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ポイントとなるコードは見出しでオレンジ色で示していきます。
イントロ
1小節目【Aadd9→Cdim→C#m7】
『Aadd9』は、ピアノのメロディーがAから見た9th(B)で始まっているためです。
『Cdim』は、C#m7のセカンダリードミナント『G#7』の代わりです。
セカンダリードミナントは、進みたいコードを一時的なトニックと見立てドミナントコード化したものです。
C#m7の暗い響きが強調され、不安な印象がある!
2小節目【A→B→E】
はじめ1小節は、不安を感じる様な暗い進行でしたが、2小節目は明るい『E』に進んでいきます。
サブドミナント(A)→ドミナント(B)→トニック(E)と進む、明るく安定感のあるコード進行です。
ダイアトニックコードを使えば、キーに対して違和感のないコード進行を簡単に作ることができます。 ただ、ランダムに並べたコー…
3小節目【A→Cdim→C#m7→E/B】
1小節目と似た進行です。
1小節ごとに、「暗い」と「明るい」を繰り返していることが分かります。
『E/B』はEの第二転回系です。
転回系は、コード構成音のルート以外をベース音に配置したコードです。
4小節目【F#m7→F#m7/B】
『F#m7→F#m7/B』の様な、ツーファイブ進行はよくみられます。
F#m7が連続していますが、『F#m7』はサブドミナント、『F#m7/B』はドミナントの役割があるため、トニックである『E』への進行を予感させます。
ドミナントで『B7』を使うよりも、フワッとしていて、少し軽い・軽やかに感じる進行となります。
(F#m7/Bは、構成音をみるとB7sus4(9)とも言えるため、ドミナントとしての役割があると言えます。)
この曲の穏やかさは、こうしたコード進行からも感じられるね!
Aメロ
Aメロのコード進行の土台は、カノン進行です。
元々のカノン進行からはアレンジが加わっていますが、カノン進行の元となっている『パッヘルベルのカノン』にみられる様な、穏やかさや神聖さが感じられます。
1小節目【E→E/B】
『E』はトニック、『E/B』はトニックEの第二転回系です。
通常のカノン進行では、ドミナントのBを使いますが、ここではE基調のコードにしています。
コードが進んでいる雰囲気が少なくゆったりとして、より明るく感じます。
2小節目【C#m7→E/G#】
『E/G#』はEの第一転回系です。
ここでAメロの楽譜をあらためて見てみると、転回系を含めて『E』の使用率が高いことが分かります。意図的にEを多くしている様です。
Eの使用率から見ても、このセクションは明るいことが分かるね!
4小節目【F#m7→D→B9】
『F#m7→D→B9』の進行の中で、『D』だけがノンダイアトニックコードです。
Dは、モーダルインターチェンジという考え方で、Eマイナーキーから借りてきたコードと考えられます。
ここでは、モーダルインターチェンジの解説は省略しますが、ノンダイアトニックな響きが一瞬おどろきや緊張感をもたらします。
7小節目【A→E/G#→G♭dim→F#m7】
『G♭dim』は、手前のE/G#とF#m7を半音で繋ぐ経過音的コードで、パッシングディミニッシュ言います。
コードの遷移がスムーズになる他、これまでのコード進行に比べてコードの数が多くなるため、曲に動きが生まれます。
Bメロ
Aメロに比べ1小節に3コード以上詰まっているため、比較的躍動感を感じます。
サビに向け、徐々に感情が溢れ出していく感じでしょうか。温度感、テンションの高まりが感じられます。
また、イントロと同じで「1小節目は暗く、2小節目は明るく…」となっています。
サビ
1~2小節目【A→A/B→C#m7→E/G#】
最終的に『E(E/G#)』に進むので暗くはない進行ですが、『E/G#』とベースがG#になっているので、強い解決が得られず、明るい進行とも言えません。
『A/B』はB7sus4(9)と言い換えれますが、Aコードが続くために、少しゆったりとした雰囲気を感じさせ、ドミナント感を薄めています。
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6小節目【G#m7→Cdim→C#m7】
サビはここまで1小節2コードで進んできましたが、ここでコードの数が多くなります。
動きが生まれて、クライマックスへ向かっている様子が感じられます。
7〜8小節目【F#m7→E/G#→A→A/B→Esus4→E】
ベース音をみると、F#m7から上がってくる進行です。
F#m7(IIm7)からの上行は、高揚感を感じさせますが、落ち着いた曲になるよう調節していると思われるコードがあります。
まず、『A/B』はここまでも何度か出てきていますが、『A→A/B』の進行は動きが少なく、盛り上がりも抑えられます。
次に『Esus4』は、Eへの解決を遅らせる役割を担っています。
順当に解決せず一度Esus4を置くことで、高揚感が収まって、落ち着いた解決となっています。