映画『思い、思われ、ふり、ふられ』の主題歌にもなったofficial髭男dismの一曲、「115万キロのフィルム」。
今回はこの楽曲の分析をしていきましょう。
曲の意味を探っていくことで作曲者の意図や、細部までのこだわりなんかが見えてきて、今よりずっと音楽がたのしくなりますよ!
今後作曲をしていく方にも大きなヒントとなる楽曲でしょう。
映画に使われるようなフィルムを80年分回し続けるとその長さが115万キロほどになるそうです。
彼女との一生分の思い出を刻んでいきたいという思いが込められているのでしょう。
全体を通して
シャッフルのリズム(はねたビート)が特徴的で終止パワフルな演奏をしています。
歌、演奏どちらもシンコペーションが多用されていますね。
「これから歌う曲の内容は僕の頭の中のこと」
という歌詞でスタートするこの曲。
全体的なパワフルな演奏が、主人公が楽しそうに嬉しそうに想像の話を恋人にしている様子を感じさせます。
E♭のメジャーキーの曲ですが、終止希望感のあふれる曲調になっています。
前に突っ込むようなシンコペーションを多用した演奏が、時間軸的にも、未来に向かって前進しているように感じました。
基本は長調(明るいイメージ)の曲ですが、ところどころ単調的なアプローチをしています。
例えば、Cmから始まるクリシェの下降や、DØ→G7 →Cmの動きなどは、キーのE♭から見た並行調であるCmキーとして見れる動きをしています。
感情の浮き沈みや、思い通りにいかない人生の難しさを表現しているのか。
そういうマイナスな部分もありながら、全体的には明るく希望を感じる構成。
導入部分
やはり特徴的なのはイントロの楽器だけになる部分(9章節目)。
モーダルインターチェンジという技術が使用されています。
E♭の同主調の「E♭mキー」のコードを借用している形になります。
キーはE♭でありながら、使うコードはE♭m。
なんだか浮遊感があり空想の世界にいるような雰囲気がありますね。
不安定な調性にしながら、あくまでも明るさのあるメジャーキーにとどめる。
このふわふわとした状態が「これから話すことは僕の頭の中の話だよ。」と、空想の世界への導入とした役割に感じます。
Aメロ・Bメロ
今回、1番Aメロ・Bメロの分析が省略。
楽譜だけ載せておきます。
Aメロ:コード
Bメロ:コード
サビ:未来の話という希望感の表現
終止明るさを感じるこの曲で、歌詞からもウキウキするような希望感の強い内容を感じます。
全体的なリズムやコード進行がその希望感の表現に一役かっていますが、中でも注目すべきはサビの「ここで君がわらうシーンが」と上昇していくボーカル。
5度の音から上昇していくメロディーは強い明るさと力強さを感じさせます。
これは2番のサビ前にも使用されています。
ピアノが5度の音から上昇していくフレーズでサビにつながります。
そして平行調のメジャーに着地
上昇の勢いをなくしたメロディーが並行長調であるCのコードに着地します。
E♭のキーでは通常Cmであるべきですがここでメジャーコードと変えています。
Ⅵmをメジャーとすることは様々なジャンルの曲で利用されています。
普段マイナーコードが来ると無意識に予期していた視聴者は、予想外の明るい響きにより一層の希望感を感じるのです。
物語に沿った短調的なアプローチ
2番Aメロ「きっと情けないところも」
随所に短調的なアプローチがちりばめられています。
要するに暗い雰囲気を醸し出すコード進行があるということですね。
2番Aメロのコードを見ていきましょう。
「今でも余裕なんてないのに こんな安月給じゃもうキャパオーバー」
の部分から、歌詞もどちらかというと暗い内容を話していますよね。
5小節目からは、Cm7 に続く2-5-1の進行で部分的に暗い雰囲気を感じさせます。
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歌詞の内容の暗い部分に合わせて暗い響きのコードが当たっています。
主人公の感情の浮き沈み。あるいは、話の抑揚を感じさせます。
実際に作り手がここまで考えているかどうかはわかりませんが、秀逸です。
2番サビ5小節目
同じように、暗い響きで主人公の感情を表現している場面を、2番サビ5小節を例に見ていきましょう。
「すれ違いや憂鬱な展開が 引き裂こうとしたその先には」
部分的にみるとマイナスで暗い話ですよね。
ここはⅡmのコードですが、2つ目がFmM7になっていますね。
マイナーコードの半音の下降は暗い雰囲気を感じさせます。
コード聴くだけでも憂鬱な雰囲気ありますよね!
ラスサビ:最高のエンディング!
ラストのサビは通常より一回し多くなっていますよね。
「壮大で未来への希望溢れる感動のエンディング」のように感じます。
「さあ ここから始まる名場面を探しに行こう」の部分
ここではベースが動く動く。
最初はE♭コードの3度を起点とした動きをしてます。
コード的には通常通りE♭を弾いていると思うのですがベースが動くことで違ったように聴こえますね。
2つ目のコードはDØであるはずですが、ベースの動きからB♭/Dと解釈するべきではないでしょうか。
ここでベースはDとB♭の和音、DとA♭の和音と動いています。
ベーシストとしてもしっかり押さえておきたいポイントですね!
通常「E♭→DØ→G7→Cm」とコードが進行する場面ですが、ベースがB♭7コードの動きをしています。
これは、今までのサビとの差別化といった役割を果たしています。
同時に、さらなる明るさが増したコード進行になります。
「DØ→G7 →Cm」の動きはCmに続くマイナー2-5-1の動きととらえることができますが、
これではエンディングにしては少し暗すぎるとも思えます。
DØをB♭7/Dとすることでメロディーへの影響なくメジャーコードに置き換えることができますね。
まとめ
今回はOfficial髭男dismのアルバム『エスカパレード』に収録されている「115万キロのフィルム」を分析していきました。
細やかな感情の表現がコードや演奏に表れていることがわかりました。
(これらの分析はあくまでも私たちの見解であり、実際にそのように作られているかは定かではありません。)
楽曲の分析をすることで、その時の作者の感情や意図が読み解けます。
さらには自分の楽曲にエッセンスとして取り入れることもできますね。
皆さんも、友達や家族と意見交換してみてはいかがでしょうか。