「セカンダリードミナントでも転調しているわけでもない」のに出てくるノンダイアトニックコード。
多くはモーダルインターチェンジかもしれません。
『モード』という概念が関係するために、難しく感じられるモーダルインターチェンジ。
今回は、順を追って解説していくと共に、使用例を参考にしつつ使い方まで解説いたします。
モーダルインターチェンジを含めたノンダイアトニックコードについての詳しい記事は『ノンダイアトニックコードってどんなもの』をご覧ください。
モーダルインターチェンジとは
モーダルインターチェンジは、曲中にモード(スケールのようなもの)を交換する手法です。
モードが変わればノンダイアトニックなトーン・コードが生まれます。
例えば、下のコード進行のように、Cメジャーキーの中で『A♭M7』や『Fm7』のようなノンダイアトニックコードが扱えるようになります。
この例では、Cエオリアンモード(後術)に一時的にモーダルインターチェンジしています。
モーダルインターチェンジをより理解するために、以下の2つを順に解説していきます。
- モードと、モードの種類について
- パラレルモードについて
モードとは
モーダルインターチェンジを直訳すると、「モード(旋法)の交換」ですので、モードがイメージできないと、何を交換しているのか分かりません。
モード(旋法)とは、調(メジャーキーやマイナーキー)という概念ができる前からある旋律(メロディー)のルールのようなものです。
今でいう、スケール(音階)に近しく、モーダルインターチェンジを使う際も「モード=スケール」と考えて差し支えありません。
モードの世界では、メジャースケールを「アイオニアンモード」と呼び、スケールの開始位置を変えることで計7つのモードが考えられます。 開始する音がそのモードの中で中心(軸)となる音なので中心音と呼びます。
Cメジャースケール(Cアイオニアンモード)で考えてみましょう。
中心音 | 名称 | 音階(スケール) |
---|---|---|
1度(ド) | Cアイオニアンモード | ドレミファソラシド (全・全・半・全・全・全・半) |
2度(レ) | Dドリアンモード | レミファソラシドレ (全・半・全・全・全・半・全) |
3度(ミ) | Eフリジアンモード | ミファソラシドレミ (半・全・全・全・半・全・全) |
4度(ファ) | Fリディアンモード | ファソラシドレミファ (全・全・全・半・全・全・半) |
5度(ソ) | Gミクソリディアンモード | ソラシドレミファソ (全・全・半・全・全・半・全) |
6度(ラ) | Aエオリアンモード | ラシドレミファソラ (全・半・全・全・半・全・全) |
7度(シ) | Bロクリアンモード | シドレミファソラシ (半・全・全・半・全・全・全) |
このようなメジャースケールから派生する7つのモードをチャーチモード(教会旋法)と呼びます。
同じメジャースケールから派生するため、構成音は同じですが、中心音からの音程が変わるため違った雰囲気が感じられます。
モーダルインターチェンジを理解するための『モード』の理解は、現段階でここまでで十分とします。
歴史の深いモードをさらに詳しく知るには、「音楽でいうモードとは」をご覧下さい。
パラレルモードとは
Cメジャースケールから派生した教会旋法は、すべてCメジャースケールと同じ音になります。
こうした関係性を「レラティブ」と言います。
反対に、主音が同じモードの関係性を「パラレル」と言いますが、モーダルインターチェンジはパラレルモードで行います。
例えば、Cメジャーキーの曲(Cアイオニアン)であれば、CドリアンやCフリジアンなどとモーダルインターチェンジします。
ハーモニックマイナーやメロディックマイナー、またそこから派生するモードなどなど。
モーダルインターチェンジの使い方
モーダルインターチェンジを使うには、実際によく使われるモーダルインターチェンジのパターンを知っておくことが重要です。
エオリアンモードからIVm
通常のⅣ(F)を、エオリアンスケールのⅣmにモーダルインターチェンジしています。
なんとも、哀愁のある響きに感じます。
サブドミナントマイナーとも呼ばれています。
エオリアンモードから♭VIM7
A♭M7も、Cから見て短6度の音を含むため、サブドミナントマイナーの仲間として考えられます。
そのため、先ほどのIVmのコードと近しく聞こえた方も多いかもしれません。
また、3度下、または上に並行移動するコード進行は、クロマティックミディアント進行と呼ばれたりもします。
ミクソリディアンモードから♭VIIM7
ミクソリディアンモードの♭ⅦM7を借用することで、全音したのM7に並行移動することができています。
他にエオリアンモードから、♭Ⅶ7(セブンス)を借用することがとても多いので、混同しないよう注意が必要です。
フリジアンモードから♭ⅡM7
フリジアンモードの♭ⅡM7を利用することで、半音上のコードに並行移動しています。
ただし、♭ⅡM7はサブドミナントマイナーの代理コードとしてとらえられることができますので、そうした解釈の方が変に複雑化させずにスマートに読み解くことができそうです。
リディアンモードから#IVm7-5
『#IVm7-5』はJPOPで頻出のコードです。
様々な解釈ができるこのコードですが、一つの考え方としてリディアンモードからのモーダルインターチェンジと考えられます。
モーダルインターチェンジが使用された楽曲例
前章でも定番のモーダルインターチェンジコードを解説しました。
それらのモーダルインターチェンジが実際に曲の中でどの様に生かされているのかを知ると、より応用しやすくなるでしょう。
モーダルインターチェンジを学ぶなら、ジャズ聞いて分析した方がより効果的かとは思いますが、ここでは等サイトの主旨でもあるJPOPの使用例を見ていきましょう。
Universe/official髭男dism
Bメロ後半部分、サビ直前の不安定になる部分を見てみましょう。
(7小節目『わかるはずもなく探した』の部分です。))
キーDbメジャーに対してbⅥM7(AM7)が使われています。
これは、DbエオリアンスケールのbⅥM7のコードを借りてきていると考えられます。
このように、同主調のマイナー(エオリアン)スケールから借用するパターは邦楽・洋楽問わずよく見られます。
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』主題歌に決定したofficial髭男dismのニューシングル「Unive…
ドライフラワー/優里
サビの後半を見てみましょう。
Cm6(9)となっている部分がモーダルインターチェンジでGマイナー(エオリアン)スケールから借用しているコードです。
このようなメジャーキーのⅣのコードがマイナーとなる場合はサブドミナントマイナーと呼ばれたりします。
優里メジャー2作目の楽曲となる「ドライフラワー」 数々の国内チャートで首位を獲得しました。 メジャー1作目となった「かく…
何度でも/DREAMS COME TRUE
Bメロのコード進行を見てみましょう。
(『誰かに期待されても』の部分です)
キーはEメジャーになります。
キーであるEからみてbⅦ7M7が出てきています。
このコードは、EミクソリディアンスケールのbⅦM7コードを借用しています。
前述した2曲のようなエオリアンスケールからのモーダルインターチェンジよりは使われませんが、明るい転調感が得られ好んで使う人も多いので覚えておきましょう。
モーダルインターチェンジ使用時の注意点
モーダルインターチェンジは簡単にノンダイアトニックコードを挿入することができる反面、てきとうに扱うのは危険です。
以下2点を考慮すると失敗が少なくなるしょう。
- メロディーとの兼ね合い
- 調性感が薄まることを覚悟する
メロディーとの兼ね合い
結局、メロディーを崩壊させてしまったら意味がありません。
メロディーと不協和音やアボイドの関係になったり、不自然すぎるメロディーだと感じられるようではいけ本末転倒です。
決して不協和音やアボイド自体は問題ではないのですが、メロディー度外視でモーダルインターチェンジを利用するのは控えましょう。
調性感が薄まることを覚悟する
モーダルインターチェンジは、もともとの調性から外れたコードを借用してくるので、もちろん調性感が損なわれます。
調性外のコードを総じてノンダイアトニックコードと言いますが、別理論のセカンダリードミナントやパッシングディミニッシュなどよりも、調性感が薄まりますので、ちょうどいい塩梅で利用するようにしましょう。
モーダルインターチェンジによるコードが連続してしまうと、部分的に転調したようにも思われてしまうので、本来の意図からそれてしまうことも考えられます。
モーダルインターチェンジの一覧(キーCバージョン)
モーダルインターチェンジは、使えるコードが決まっているため、一覧表で見ると簡単に利用することができます。
モード名 | ダイアトニックコード | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Cアイオニアン | CM7 | Dm7 | Em7 | FM7 | G7 | Am7 | Bm7-5 |
Cドリアン | Cm7 | Dm7 | E♭M7 | F7 | Gm7 | Am7-5 | B♭M7 |
Cフリジアン | Cm7 | D♭M7 | E♭7 | Fm7 | Gm7-5 | A♭M7 | B♭m7 |
Cリディアン | CM7 | D7 | Em7 | F#m7-5 | GM7 | Am7 | Bm7 |
Cミクソリディアン | C7 | Dm7 | Em7-5 | FM7 | Gm7 | Am7 | B♭M7 |
Cエオリアン | Cm7 | Dm7-5 | E♭M7 | Fm7 | Gm7 | A♭M7 | B♭7 |
Cロクリアン | Cm7-5 | D♭M7 | E♭m7 | Fm7 | G♭M7 | A♭7 | B♭m7 |
まとめ
モーダルインタチェンジを思うがままに扱うことはなかなかに難しいことですが、『定番』を覚えることで簡単に使用できます
ここまでの内容をQ&A形式でまとめていきます。
- メロディーとの兼ね合いを考える
- 調性感が薄まることを覚悟する