上図のように、あるコードとあるコードの間にあり、半音階の進行を作るディミニッシュコードをパッシングディミニッシュと言います。
この記事では、ディミニッシュコードの詳しい解説、使い方を紹介していきます。
記事3章では、Lisaの『紅蓮華』とドラマ主題歌『マルマルモリモリ』の楽曲を参考にパッシングディミニッシュを見ていきます。
パッシングディミニッシュ含め、ノンダイアトニックコードについての詳しい記事は『ノンダイアトニックコードってどんなもの』をご覧ください。
記事中間で解説を入れていますが、混同しないようにご注意ください。
パッシングディミニッシュとは
パッシングディミニッシュとは、コード進行のなかで全音間隔で隣り合う2つのコードの間に経過音的に差し入れることができるディミニッシュコードです。例えば『G→Am』のコード進行を『G→G#dim7→Am』のように変化させることができます。dim7でなく三和音のdimコードでも可能です。
全音間隔のコードの間にパッシングディミニッシュが入ることで、ベースラインが半音ずつ上がっていく進行になるよ!
上行パッシングディミニッシュはドミナントの代理
上述したような上行する進行で現れるパッシングディミニッシュは、進行先のドミナント(セカンダリードミナント)の代理となるコードです。
構成音がほとんど同じなので、ドミナントコードが進みたいコードに、同じように進もうとします。
例えば、Cをトニックと見立てたドミナントとパッシングディミニッシュを考えてみましょう。
コード | 構成音 |
---|---|
D7 | D,F#,A,C |
F#dim7 | F#,A,C,E♭ |
D7(厳密にはD7♭9)のルートを省略したコードがF#dim7なので、パッシングディミニッシュがドミナントに近しいということがわかります。
ただし、パッシングディミニッシュと解釈する場合は、あくまでも全音間隔のコードの間に挟まれている必要があります。
そうでない場合は、単にドミナントの代理として使われているディミニッシュか、また別の解釈のディミニッシュコードになります。
パッシングディミニッシュの効果
パッシングディミニッシュを利用すると、非常に滑らかで強制力がある自然なコード進行が生まれます。
パッシングディミニッシュの響きが滑らかさを生む理由は以下4つです。
- ベース音が半音ずつ変化するようになる
- 前のコードの5度とパッシングディミニッシュコードの減5度の音が同じ
- 前のコードがメジャーコードであれば、パッシングディミニッシュコードの短3度と同じ音
- 前のコードが短7度を使うコードであれば、パッシングディミニッシュコードの減5度と同じ音
パッシングディミニッシュの前のコードとの親和性が高いからこそ、より滑らかな響きに聞こえるのです。
さらに、非常に不安定な響きのディミニッシュコードなので、半音の動きを保ったまま次のコードに落ちつきたいという表情が現れるので、より自然にコードが進んでいくのです。
パッシングディミニッシュの使い方と注意点
一言に、「動きを滑らかにするためにパッシングディミニッシュを使う」と言われても、どういった場面では使用するべきか。また使用してはいけないのか分かりません。
ここからは、パッシングディミニッシュの使い方を解説していきます。
下行するパッシングディミニッシュ
1章の譜例では、上行(音が上に上がっていく)のパッシングディミニッシュを解説してきました。
もちろん、下降するコード進行でパッシングディミニッシュを使うことも可能です。
上行が使えるように、下降のパッシングディミニッシュも使うことができるのですが、最も効果的なシーンは『Ⅲm→♭Ⅲdim→Ⅱm』のような『Ⅲ→Ⅱ』の下降進行に限られます。
というのも、上行のパッシングディミニッシュは、次のコードへのドミナント的な役割があるのに対し、下降の形にはそれがありません。
上の画像は『Ⅵ(Am)→Ⅴ(G)』の進行を想定していますが、Ⅴ#dimは単にⅤのベース音が半音上がった形に過ぎないからです。
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ハーフディミニッシュは使えるの?
結論、コードとコードの間にハーフディミニッシュを使うことはありますが、パッシングディミニッシュとはまた別の解釈になります。
3和音のディミニッシュはさらに音が一つ重なると、ハーフディミニッシュとディミニッシュセブンスに分かれます。
- ハーフディミニッシュ(m7♭5):R・短3度・減5度・短7度
- ディミニッシュセブンス:R・短3度・減5度・減7度(短7度の半音下)
パッシングディミニッシュに使われるのは、3和音のディミニッシュかディミニッシュセブンスになります。
解決先の半音下のコードはパッシングディミニッシュといえる?
よく、Ⅵmのコードに着地する際に半音下のdimコードを経由することがあります。
例えば、以下のような進行です。
key=G
C |D#dim7 |Em
この例でも、Emへのアプローチを滑らかにするために使われているとすれば、パッシングディミニッシュに近しいとも取れますが、この場合はパッシングディミニッシュとは言いません。
このdimの正体は、Emをトニックに見立てた際のセカンダリードミナントB7の代理コードと解釈するのが自然です。
あくまでも、全音で隣あう二つのコードの間に入るディミニッシュコードがパッシングディミニッシュです。
ヒットソングでみるパッシングディミニッシュ使用例
今回はパッシングディミニッシュが使われている有名な2曲を紹介します。
実際にその部分を聴いてみて、パッシングディミニッシュの聞こえ方を感じてみましょう。
紅蓮華 / Lisa
サビでは頻繁にディミニッシュコードが使われています。
ここまでの解説に照らし合わせるならば、サビ10小節目のD#dimの部分がパッシングディミニッシュになります。
DとEmは全音の関係にあるので、その間のディミニッシュはパッシングディミニッシュと解釈することができます。
この曲はキーはEmなので、ダイアトニックコードに置き換えるとDはⅦ、EmはⅠ(トニック)になります。
このように、マイナーダイアトニック上の『Ⅶ→Ⅰ』の間、メジャーダイアトニックの『Ⅴ→Ⅵm』の間には頻繁にパッシングディミニッシュが使われます。
マル・マル・モリ・モリ! / 薫と友樹、たまにムック。
紅蓮華のようなロック調の曲以外にも、よく耳にするポップスでもパッシングディミニッシュは使われています。
この曲では、Aメロの2小節目『Fdim』がパッシングディミニッシュになります。
曲中のコード進行にはよく『トニック→サブドミナント』の動きがよく見られます。
Eはトニック、F#m7はサブドミナント(代理コード)になり、そこへの動きを滑らかにする意味でもパッシングディミニッシュが使われることがよくあります。
まとめ
パッシングディミニッシュは全音間隔のコードの間であれば挿入することが可能です。
簡単に扱えるノンダイアトニックコードなので、作曲やアレンジにすぐに活かすことができそうですね。
ノンダイアトニックコードを上手く利用するには、感覚だけでなく、こうした知識が必要になってきます。
難しそうに感じますが、以外にも理解することはとても簡単なので、是非学習していきましょう。
次は「裏コード」を理解していきましょう。
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ここまでの内容をQ&A形式でまとめていきます。
A.経過音的に扱うディミニッシュコードのことで、全音間隔で動くのコードの間に挿入することができます。
A.ディミニッシュにはR、短3度、減5の3和音のものと、減7度を付加した4和音のディミニッシュセブンスコードがありますが、パッシングディミニッシュにはその両方を使うことができます。
A.ハーフディミニッシュは似たような意味合いで使うことがありますが、パッシングディミニッシュとは言えません。別の解釈になります。