海外の映画を見ていてもよく耳にする「クリシェ」という言葉。
決まり文句や常套句といった意味があります。
音楽でも頻繁に『クリシェ』という用語が使われますが、同様にとても定番なアレンジ方法を指しています。
クリシェという音楽用語の解説と、クリシェの使い方を解説していきます。
クリシェとは
クリシェとは、コード内の一音を半音または全音で上行させたり、下行させたりするアレンジ手法です。
同じコードの上で一音が変化していくので、コードネームのルートを指す大文字部分は変わりません。
例えば、『C⇒Dm7⇒Em7』のように全音で上行していてもクリシェとは呼ばず、『C』で留まっている必要があります。
以下の進行はクリシェの定番パターンで、Cコードの5度を半音ずつ上行させています。
クリシェ中は、土台が同じコードであるためにコードが進行している感じがあまりありません。
また、ベースラインが変化するパターンは、ベースラインクリシェと言われています。
本来クリシェは、変化を最小限に抑えコードの進みを感じさせにくくするものですが、ベースラインの変化はコードが進んでいる様を強く感じさせるため切り離して考えられています。
例えば、Cmの短3度に当たるE♭を半音上行させた場合、Cメジャーのコードとなり雰囲気が明らかに変わりすぎてしまうためです。
クリシェの定番パターンと楽曲例
クリシェが使われるコード、コードの構成音には定番の型があります。
例えば、ダイアトニックコードでいうⅠ(トニック)の時にクリシェがよくつかわれます。
ここでは、4つの定番クリシェを、同じように使用されている楽曲を示しつつ解説していきます。
(ここからはキーCで考えていきます。『I』はCコード、『VIm』はAmコードを指します。)
- 『I』の5度を半音上行
- 『I』のルートを半音下行
- 『I』のルートを半音下行(ベースラインクリシェ)
- 『VIm』のルートを半音下行(ベースラインクリシェ)
『I』の5度を半音上行
C ⇒ Caug ⇒ C6 ⇒ C7
1章でクリシェを解説する際に、クリシェの一例を紹介しましたがまさにこのパターンです。
5度の音が半音で上昇していき、C7に行きつきます。
C7は、F(IV)に対するセカンダリードミナントになるので、スムーズにFへと進行していきます。
楽曲例
サザンオールスターズの『みんなのうた』、サビ冒頭が早速クリシェをしています。
メロディーは簡単なモチーフの連続ですが、上行するクリシェが高揚感をもたらしています。
『I』のルートを半音下行
C ⇒ CM7 ⇒ C7 ⇒C6
トニックのルートが半音で下行していく形です。ベースラインはCでキープされているので、上のルートだけが半音下行しています。
C7をセカンダリードミナントと考えれば、F(IV)やDm(IIm)へ進行しやすくなります。
Fの3度がC6の長6度と同じ音なので、C6をそのままFに差し替えても自然です。
楽曲例
back numberの『花束』イントロがこのタイプのクリシェをしています。
ゆったりと落ち着いたリズムと下行ラインですが、不安定な響きも目立ち、フワフワと不安定な主人公の様子が感じられます。
ただし2週目はベースも下行しているので、ベースラインクリシェとするほうが正確かもしれません。
『I』のルートを半音下行(ベースラインクリシェ)
C ⇒ C/B ⇒ C/B♭
トニックのベースラインが半音ずつ下行していくベースラインクリシェです。
ベースラインが変わるとコードも大きく変わっているように感じるため、クリシェらしさが減ります。
ベースラインをAまで落とし『A7』とすることが多く、Dmへのセカンダリードミナントとしています。
楽曲例
DREAMS COME TRUEの『LOVE LOVE LOVE』Aメロがこのタイプのクリシェをしています。
緩やかな下行クリシェですが、ベースラインが変化しているために、コードが進行している感覚が強くあり、時の進みも強く感じます。
この楽曲では、さらにこの後2小節もベースラインクリシェが続きます。そして、さらにその後もクリシェが続きますが、次の項目で解説します。
『VIm』のルートを半音下行(ベースラインクリシェ)
Am ⇒ AmM7/A♭ ⇒ Am7/G
これも非常に定番のパターンで、official髭男dismや椎名林檎に広瀬香美…例を挙げればきりがないほど最もよく見かける進行です。
短調の曲ではその暗い雰囲気を際立たせ、長調の曲ではドラマチックで深みある展開を演出します。
この後のパターンとしては、そのままベースラインが下って『F#m7-5』に進行するものと、『D7』(セカンダリードミナント)に進むものが定番です。
D7に進めば、『D7⇒G7⇒C』と明るい進行をイメージしやすくなります。
楽曲例
先ほどのDREAMS COME TRUEの『LOVE LOVE LOVE』続きを見てみると、このタイプのクリシェが行われています。
クリシェ部分は暗い雰囲気が漂いますが、『E♭7』で一気にきりが晴れたような印象を覚えます。
まとめ
クリシェはいわば常套句。
頻繁に使われていますし、クリシェしやすいほとんど見出されているので、そのパターンが定番がされています。
そのため使いやすいですが、聴者もクリシェをイメージしやすいので、「新しさ」は感じにくいと言えます。
それでも、クリシェは楽曲をドラマチックに彩る素敵なアレンジです。
定番はもちろん、独自で構成音を上下させてみて、オリジナルなクリシェも楽しんでみましょう。
ここまでの内容をQ&A形式で振り返っていきましょう。