【怪物/YOASOBI】コード進行と分析

テレビアニメ『BEASTARS』の第2期オープニング曲、怪物。
前半にはダークな雰囲気が漂い、サビでは駆け抜けるようなテンポ感があり、すがすがしくかっこいい一曲でした。

今回は、『怪物/YOASOBI』のコード進行を分析していきます。

ここからの内容は、er-music編集部の独自の見解になります。 読者様との解釈に相違がある場合も、考え方の一例、娯楽の一環としてご覧ください。 また、ダイアトニックコードの理解があるとより楽しめるかと思います。 >>ダイアトニックコードについて

全体を通して

複雑なコードこそ使われていませんが、サビの度に転調が行われ、最後は『落ちサビ』のタイミング『ラスサビ』のタイミングと2連続で転調が行われます。
『夜に駆ける』の最後でも2回続けた転調が行われていました。

Aメロ、Bメロのキーは、Gマイナー。
サビは転調しますが、ここではキーE。
最後の『A→B』で終わることや、メロディーの着地がEであることから、ここはメジャーキーだとしました。

えるるん
マイナーキーの暗い雰囲気から始まるけど、サビではメジャーキーに。
単に暗い曲ではなくて、希望的で前向きな曲だってイメージがわくね!

いずれの場合も、ディグリー表記での解説は、メジャーキーを想定した分析にしています。
(例:G#m⇒Bとするので、『G#m』はⅥmに該当します。)

Aメロ

Aメロ楽譜

5小節目(D#)

純粋にダイアトニックコードを守るならば、ここはD#mであるべきですが、メジャーコードとなっています。
これはG#mに強く進もうとする、『ドミナント』の力を強めるためのものです。

通常のG#ナチュラルマイナーでは、D#mとなるのですが、一時的にG#ハーモニックマイナーで考えるとD#やD#7のドミナントコードが使えるようになります。

⇒マイナースケールについて詳しい記事はこちら

えるるん
マイナーコードへと進むドミナントコードを使うと、その暗い雰囲気を一層高めることができるんだ。

Bメロ

Bメロ楽譜

5~6小節目(EM7→F#→Gdim7→G#m)

ここまで一辺倒だったコード進行から打破し、展開していきます。
このコードの主軸は、王道進行の形と言えるでしょう。

王道進行は、ディグリー表記で『Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm』の進行のことです。詳しくは後程。

気になる点は『Gdim7』ですが、このコードはパッシングディミニッシュと呼ばれるコードです。
パッシングディミニッシュは、経過音的に扱うディミニッシュコードで、全音距離のコードの間に差し込むことができます。

この部分の解釈
コードに動きが出て、楽曲に勢いが出てきました。
行きたいコード(ここでのG#m)の半音下のdim7コードは、行きたいコードに対するドミナントコードの代理といえます。
今回でいうと、Gdim7は『D#7(♭9)』の代理としても機能しています。
構成音が近しく、同様にG#mに進みたくなる「推進力」があります。
  • D#7(♭9):D#,G,A#,C#,E
  • Gdim7:G,B♭(A#),D♭(C#),F♭(E)
ベース音が半音下からアプローチするために、その推進力は強くスムーズに進行していきます。
結果、サビが来ることを期待させるほどに勢いが増したように聞こえます。

 

サビ(キー)

サビ楽譜

転調について

サビになると、キーEへと転調しています。
これまでが、キーB(G#m)だったので、4度上のキーに転調したことになります。

AメロBメロのキーのサブドミナントへの、転調のため比較的近しい関係のキーに転調していることがわかります。
サブドミナントが位置する調を、下属調と呼び、このような関係の近しい調を近親調と呼びます。

えるるん
調号で見ると、ちょうど『#』が一つ減ったね。
さらに、Bメロの最後のコード(G#m)が、サビのキーEのダイアトニックコードに含まれるコードのため、スムーズな転調をしています。
このような、転調前後のキーで共通するコードをピボットコードと言います。
キーBとキーEのダイアトニックコード

1~4小節目(A→B→G#m→C#m)

サビのコード進行は、先ほども話にあがりった王道進行が使われています。
最初4小節に限らず、全体が王道進行を軸に作られています。

各キーでの王道進行

ディグリー表記Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm
キーCの場合F→G→Em→Am
キーG#m(B)の場合E→F#→D#m→G#m
キーEの場合A→B→G#m→C#m

6~7小節目(G#7→G#7/C→C#m)

『G#7』は、C#m に対するセカンダリードミナントです。

セカンダリードミナントは、次のC#mを一時的なトニックとみたててドミナントコードに変換したものです。

えるるん
厳密に区分けするなら、A、Bメロは(C#m) マイナーキーなのに対して、
サビは(E)メジャーキーだから、E以外を対象としたドミナントコードはセカンダリードミナントといえる。
A,Bメロでは、マイナーコード(G#m)に進むD#7も普通のドミナントと言ってたね!

間奏から2Aの転調部分

2番Aメロ楽譜

サビが終わり、その勢いを保ちつつ間奏へと突入します。
間奏からAメロへと移る場面では、もともとのG#mキーへと転調がされます。

キーEから見たら、B(G#mの平行長調)はドミナントに位置しますので、『属調』へ転調したことになります。
属調への転調は、#が一つ増えます。(♭なら一つ減る)

間奏~落ちサビの転調部分

間奏楽譜

上図が間奏の進行です。ここから、下図のキーD♭へと転調します。

落ちサビ楽譜

調号が#、♭と変わってしまうためわかりづらいですが、要は全音上のキーへと転調しています。
全音上へと転調すると、♭2つ減ります。(#が2つ増える)
次の章で解説しますが、ラスサビではさらに、全音の2倍の『2全音』上へと転調します。

順次全音上へと転調していく例としては、『【燃えよ/藤井風】コード進行解説』をご覧ください。
サビの中で、全音転調→全音転調を繰り返していきます。

えるるん
『全音』がこの転調部分のテーマ軸となっているんだね!
ラスサビで半音転調する楽曲は多いものの、全音転調は比較的少ない印象です。
ほかの例を挙げるとするなら、『メリクリ/BoA』が有名です。
全音転調では、ガラッと雰囲気が変わり、力強さを感じさせます。
(今回の場合でいえば落ちサビですので、力強いとは言えませんが。)

ラスサビ

*楽譜2段目Amのディグリー表記にミスがあります。失礼いたしました。「×『Ⅲ』→〇『Ⅲm』」

ラスサビ楽譜

下がラスサビの冒頭。転調後の楽譜です。
キーはFとなり♭が4つ減っています。
♭が2つ減ると、全音上のキーへと変わるので、ここでは2全音上へと転調しています。

非常に力強い跳躍で、最後のサビにふさわしい盛り上がりを見せています。

まとめ

コードにこそ斬新な点はありませんでしたが、転調が視聴者の想像を超えてきて、1曲を通して新鮮に聴ききることができる楽曲でした。

『夜に駆ける』でもそうでしたが、YOASOBIはメロディーセンスはもちろんのこと、こうした転調を使った曲の展開の仕方がとても秀逸です。

ぜひYOASOBIのほかの楽曲のコード進行分析もご覧ください。

⇒YOASOBIのコード分析一覧

 

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