PlayStationのCMソングとして起用された米津玄師の『POP SONG』。
遊び心あふれるMVに演奏。ダークな世界観の正体をコード進行を軸に分析していきましょう。
全体を通して
エレクトロスウィング感が強い一曲です。シンセベースが土台にあるものの、使われている楽器、コードはジャズの雰囲気を作り出しています。
まれに聞こえるアコースティックな音色やフレーズは、フランス発祥のジプシージャズな要素も感じます。
ハネたリズムは愉快ですが、怪しげのあるコードとメロディが、道化のような人物像をイメージさせます。MVとピッタリですね。
※楽曲のキーは『F#mキー』ですが、平行長調の『A』を”Ⅰ(トニック)”として表記しています。
イントロ(pop song)
コード進行・2小節目【F#m7 – Bm7 ~~】
このコード進行はダイアトニックコード上で、4度進行を繰り返しぐるぐると循環させていくものです。
一曲を通して、このイントロのコード進行パターンが頻繁に使われます。
jpopで言えば、西野カナの『会いたくて』が同じパターン。
ラテン感の強い、ポルノグラフィティの『アゲハ蝶』も近しいパターンです。
若干進行が違いますが、ジャズスタンダードとして有名な『枯葉』も4度進行で循環します。非常にジャズらしい進行です。
フレーズ
コードトーンを意識して作られた規則性のあるフレーズです。
ペンタトニックや単純にF#mスケールで無秩序に奏でるフレーズよりも、コード感が出るためにジャズらしくなります。
Aメロ(pop song)
コード進行
コード進行はイントロの後半部分と同じです。
上の4小節をそのまま2回繰り返し、Bメロはと進みます。
メロディーの特徴
スケールになぞって順次上行、下行していくメロディーラインが特徴的です。
メロディーが跳躍する箇所がなく、激しさは感じない比較的落ち着いたセクションとなっています。
メロディーの上行は『明るさ』あるいは『緊張感』を感じ、下行は『暗さ』あるいは『落ち着き』を感じさせます。
上行は『緊張』、下行は『落ち着き』を表現しているとして、色分けをしてみると、それぞれ交互に繰り返していることがわかります。
メロディーを小さくパーツ化したものをモチーフと言いますが、前半2小節でも上行の『モチーフ1』、下行の『モチーフ2』を交互に使うことで、「打消し」と「秩序」が生まれています。
Bメロ(pop song)
基本のコード進行は変わりません。
9小節目【F#m – G#m7-5 – F#m/A – Bm7】
コード進行のルートを見ればF#mからスケールに沿って上行している進行であることがわかります。
『F#m/A』としていますが、A6と同じ構成音です。
これまでの決まりきったパターンを打開する進行かつ、コードの変化も目まぐるしく、サビへの展開を予想させます。
10小節目【C#7 – F#7】
『F#7』がきっかけとなり、サビの調(Bm)へと転調します。
F#7は、BmキーにおけるⅤ7です。
加えて、F#mをトニックとしてみれば下属調への転調ですので、比較的違和感なくスムーズに進行できます。
実際にはBmへと進行せず、BmキーのⅣであるGM7に進行します。
サビ(pop song)
1〜2小節目
ダイアトニックコード上で4度進行を繰り返します。
最初のGM7→C#m7-5は増4度上への進行となりますが、シンプルにダイアトニックコードをなぞった進行です。
3小節目
A#dim7は、進行先のコードに対するドミナントコードの代理コードです。
dim7は半音上のコードへ進むときに大きな解決感がうまれます。
ここではDに進みますが、A#dim7はC#dim7と全く同じなので、DとF#m、どちらのトニックへもスムーズに進むことができます。
コード | 構成音 |
---|---|
A#dim7 | A#,C#E,G |
C#dim7 | C#,E,G,A# |
メロディーの特徴
ここまで、順次進行やネイバートーンを使った「跳躍のない」メロディーが主体となっていました。
サビでは、冒頭から『シ→ファ#』の跳躍があり、躍動感あふれるサビらしい演出となっています。
サビを際立たせるために、AメロBメロは意図的に隣合う音を使ってきていると考えられます。
それに比べれば小さめの跳躍でも、AメロBメロと相対的に見れば、サビらしい目立つメロディーになる。
『うっせぇわ』ほど激しくはないけど、ちゃんと目立つしコンパクトでクールにも感じる!
間奏(pop song)
ルート音は単純に下降していくコード進行ですが、『D7』が裏コードとなっています。
裏コードは、進行先のコードの半音上のセブンスコードのことです。
裏コードの正体は、次のC#7に対するセカンダリードミナントにテンションを加えたもの『G#7(♭9)』のルート省略型です。同じトライトーンを含むため代理のコードとしてよく利用されます。
コード | 構成音 |
---|---|
G#7(♭9) | G#,C,D#,F#,A |
D7 | D,F#,A,C, |
オルタードテンションが含まれ、クロマチックなアプローチにもなるためジャズの雰囲気が増します。
加えてF#mのドミナント『C#』に対するドミナントなので、F#mキーの暗さ、怪しさがより際立ちます。
まとめ
マイナーキーの暗いコード進行に、上行メロディーやそれを打ち消す下行メロディーから、怪しい世界観が見えてきました。
メロディーラインは、大きな跳躍がない部分が多く、サビでも最小限に抑えられています。
そこに、主人公の「クールさ」というか、「余裕感」のようなものまで感じました。
ジャズにエレクトリックなサウンドを織り交ぜた、エレクトロジャズチックな演出もこれまでのJPOPにはなかなかない、斬新な作りとなっています。
日本を代表するゲーム機のCMにふさわしい、遊び心を感じる一曲でした。