TVアニメ「SHOW BY ROCK!!ましゅまいれっしゅ!!」の主題歌『ヒロメネス』。
ロックサウンドと疾走感が爽快で、希望的な様子が感じられる楽曲です。
さらなる魅力を、コード進行を中心に分析していきます。
冒頭Aメロ
BPMこそ早いですが、冒頭のAメロはギターのアルペジオ主体で、ゆったりとしています。
1~4小節【G→Cadd9→Dsus4→Em7】
Aメロ、次のイントロの土台となるコード進行です。
ダイアトニックコードのI→IV→V→VImと進むコード進行で、以下の様な楽曲でも使われています。
明るくも、若干の憂を感じるコード進行ではないでしょうか。
7〜8小節目【Dsus4】
3〜4小節目違い、Dsus4が2小節続いています。
キーGの『D』はドミナントですので、トニックコードに進もうとする力があります。
そのコードが2小節間も続くと、「早く続きが気になる」様な焦らしの効果が生まれます。
3~4小節目と違って、演奏が大きく展開していく予感や、セクションの区切りだということが感じ取れます。
間奏
1小節目【G/B】
Aメロでは『G』でしたが、ここではGの第一転回系『G/B』になっています。
『G/B』とすることで、ベース音が『B→C→D→E』と上昇していく進行になります。
3~4小節目【D→D#dim7→Em7】
『D#dim7』は、『D』と『Em7』の進行をスムーズにするコードです。
この様な、コードとコードを繋ぐ、経過和音的なディミニッシュコードをパッシングディミニッシュと言います。
また、『D→D#dim7→Em7』の様な上行のパッシングディミニッシュは、解決先(Em7)への進行感を強くする力があります。
一瞬、Emの暗い雰囲気が優位になります。
7〜8小節目【Am7→Am7/D】
Am7のオンコードが登場しますが、これはD7(ドミナント)の代わりとして使われるコードです。
そのため、D7ほどではないですが、緊張感があって『G』に進みたい力を持ちます。
Am7/Dがドミナントとして使われるのは、言い換えるとD7sus4(9)と表現できるからです。
コード | 構成音 |
---|---|
D7sus4(9) | D,G,A,C,E |
Am7/D | D,A,C,E,G |
Aメロ
12小節目【B7/D#】
『B7』は、次の『Em7』を一時的なトニックとして見立てて作られたドミナントコード(セカンダリードミナント)です。
また、B7の第一展開系『B7/D#』とすることでEm7に半音したからアプローチしています。
イントロで出てきた『D#dim7』の様に、緊張感が強く、Emへの進行も強く予感させるコードです。
この部分の解釈
このコードをきっかけに、バッキングのリズムが変わります。
これまでの様な疾走感を感じさせるものではなく、スピードダウンした様な雰囲気を感じるのではないでしょうか。
13~16小節目【Em7→G/B〜〜】
12小節目からは、Bメロへの布石となる部分です。
これまでのGから始まる明るい進行とは異なり、疾走感はなく暗めです。
走る速度を落ちていき、立ち止まってしまうかの様です。
コード進行の暗さと減速感から、落ち込む様子が感じられ、Bメロも暗めなセクションになるのではないかと無意識な予想が膨らみます。
Bメロ
1~4小節目【Em7→Cadd9~】
Aメロ、間奏と違って、暗い雰囲気が漂います。
Aメロと比べて明るさや爽やかさ、疾走感が失われているためです。
歌詞を見ても、少し落ち込んだ様子を感じられるのではないでしょうか。
「突然の風に吹かれて 影も消えたけど」
5〜6小節目【Em→B/D#→Dsus4→A/C#】
ベースがEから半音で下がっていく、ベースラインクリシェの様な進行です。
ノンダイアトニックコードが多く、非常に緊張感があるコード進行です。
VImから、ベースを半音下行させる進行はJPOPでもよく見られます。
さまざまな方法がありますが、『Em→B/D#→Dsus4→A/C#』は比較的明るめで、下行による暗さをいい塩梅で打ち消しています。
VImからの半音下行進行の比較
この部分の解釈
シンコペーションしたバッキングで、一気に速度感が増しています。
Bメロへの導入のきっかけは速度感の『減速』でしたが、サビへは『加速』する様に入っていきます。
シンコペーションと緊張感あるコード進行によって、急激な加速を感じられ、サビの高まり感を倍増させます。
サビ
1〜4小節目【Gadd9】
ほぼ4小節間『Gadd9』だけの進行で、停滞感のあるコード進行です。
ただ、リズムは疾走感からは疾走感が感じられます。
藤井風のきらりの様な、スムーズでクールな疾走感はありませんが、前向きな気持ちで力強く掛け出すような、重みのある疾走感を感じます。
9小節目【Cadd9〜】
メロディーに注目すると、4小節で一塊のメロディーが繰り返されています。
メロディーの起点となる1・5・9小節目はどれも違うコードから始まっていますね。
同じメロディーでも雰囲気が大きく違い、物語がどんどん前に進んでいる様です。
疾走感あるリズムと合わさると、前へ前へ駆け抜けている様ですね。
また、1・5小節目はトニックコードから始まっているのに対し、9小節目はサブドミナントの『Cadd9』で始まっています。
トニックよりも比較的不安定で、クライマックスに向かっているような緊張感がうまれ始めています。
11小節目【B7/D#】
『B7/D#』は、Aメロでも出てきたセカンダリードミナントです。
12小節目の『Em7』を一時的なトニックと見立てた際のドミナントです。
まとめ
なんとも、青春感を感じる一曲でした。
疾走感や明るめのコード進行、add9コードの煌びやかな響きなどが、こうした爽快感ある青春のような世界観作りに重要となっています。
バッキングやコード進行の変化で速度感に緩急をつけたりと、さまざまな工夫が確認できました。
この部分の解釈
『G』よりも、転回系の『G/B』の方が安定感が劣ります。
単純なGに比べて「地に足ついた感覚」はなくなりますが、その分「ちょっと前のめりな様な」「すでに走り出している様な」雰囲気を感じるのではないでしょうか。
またベースが順次上行していくところには、高揚感も感じます。
Gを使った冒頭Aメロの進行よりも、主人公がまさに動き出している様子がイメージできます。
Iの第一転回系は、BUMP OF CHICKENの楽曲でもよく使われています。