この曲に溢れるかっこよさ・クールさの秘密を紐解いていきましょう。
全体を通して
駆け抜けるようなテンポ感と、歪んだ音色、力強いリズムセクションなどロックな要素がふんだんです。
また女性ボーカルもあって、暑苦しくなくクールな印象です。
コード進行から、各演奏とてもシンプルでバンドでコピーしやすい楽曲です。
これも狙いか、実際にバンドでコピーする学生が非常に多く増え、社会的なバンドブームとなりました。
最近は、傾向としてブラックミュージックやヒップホップを取り込んだ楽曲が人気で、コードが複雑だったり、電子音を必要としたりします。
Don’t say “lazy”の様に、真似しやすい楽曲にするのも戦略の一つですね。
とはいえ、曲が「良い」「かっこいい」と思われるのは前提条件です。
今回は、シンプルさに潜むかっこよさや工夫を見つけていきましょう。
※分析記号はGをI、EmをVImとして表記しています。
頭サビ
※手前に1小節のドラムカウウト・フィルがあります。
1〜4小節目【C→D→Bm→Em】
『C→D→Bm→Em』の進行は王道進行と呼ばれる、超定番の進行です。
多くの人が、知らず知らずに同じような進行を何度も聞いているので、親やすさがあります。
王道進行からは、すこし切ない雰囲気を感じます。「決して明るくない」ということです。
この曲のクールな印象にもマッチしています。
7〜8小節目【Em】
8小節目は、サビの前半と後半を区切るポイントですので、トニックであるEmを2小節鳴らしてひと段落感を作っています。
13〜14小節目【Am→Bm】
ここも『C→D』と進行しても違和感ありませんが、『Am→Bm』としています。
コード進行にはそれぞれ機能(役割)があり、サブドミナントという機能から、ドミナントという機能、トニックという機能のコード順で進行すると、最後に強い落ち着きを感じさせます。
キーEmの純粋なサブドミナントはAm、ドミナントはBmですので、これまでの進行よりも、よりトニックであるEmを引き立てています。
キーEmが持つ印象を強めているんだね!
間奏
トニックであるEmが中心ですが、偶数小節の4拍目に『F』が使われています。
Fは、キーEmのダイアトニックコード上には出てきません。
解釈は以下2通りです。
- Eフリジアンからのモーダルインターチェンジ
- Emに対する裏コード(ドミナント代理)
モーダルインターチェンジは、モードという概念を用いて、ダイアトニックにない音を使用するテクニックです。
普段私たちは、長調(メジャーキー)か短調(マイナーキー)で曲を分類しますが、それとは異なる分類方法がモードです。
モードという概念の中では、キーEmは、Eエオリアンモードと言えます。
「モーダルインターチェンジによって、一時的にEフリジアンモードにモードチェンジして、『F』というコードを持ってきた」という解釈です。
だから、Fを使うとダークな雰囲気が漂うね。
次に、『F』を裏コードと捉える解釈です。
Emに対するドミナントは、B(B7)で、Bから増4度先のルートをもつF(F7)をB7の裏コードと呼びます。
裏コードは、ドミナントの代理としての役割があるため、FもBのようにEmへ進もうとします。
ノンダイアトニックで、かつEmの半音上ですので、非常に緊張感のある響きをして、Emへ早く戻りたくさせます。
Aメロ
メロディーは8部音符中心で、スピード感があります。
メロディー部分のコードは『Em』一発で、楽器の音数も減っています。
演奏よりも、ボーカルを聴かせることに重きを置いているのでしょうか。
ただし、メロディーに使われる音は限定的で、どちらかというと単調です。
そのため、メロディーラインよりももっと、歌詞とか歌い方に注目しやすくなります。
ここで、主役であるボーカルのクールさを固めているように感じます。
Bメロ
1〜4小節目【C→D→Bm→Em】
冒頭のサビの1〜4小節と全く同じ王道進行です。
5〜8小節目【C→D→Em→D】
ここもサビと似た進行ですが、サビでは7〜8小節が『Em』だけでした。
ここでは、『Em→D』として、曲の落ち着きを弱めています。
サビと比較して聞いてみると、違いがわかりやすいかと思います。
ここに大きな「落ち着き」「一段落」は必要ないんだね。
13〜16小節目【Am→A#dim→B7】
ここまで見てこなかったコード進行ですね。
dimなどが入ってくると難しく見えがちですが、この進行の元は『Am→Bm』にあります。
『Am→Bm』を土台に考えていきましょう。
A#dim
まず、『A#dim』は二つのコードをつなぐ潤滑剤のような役割で入れられているコードです。
このように全音間隔の2つのコード間にあるディミニッシュコードをパッシングディミニッシュと言います。
B7
先ほど、Bmとして登場していたコードがB7になっています。
これは、次のEmへの進行感を高めるために、ドミナントセブンスコードに変えたものです。
トニックの5度上(この場合のB)のセブンスコード(この場合B7)は、不安定な響きのコードで、安心を求めトニックへと強い進行感、推進力を生みます。
まとめ
コードを一見した時点では「シンプルな曲」と思ってましたが、なんとも語りどころが多い楽曲でした。
語れるということは、それだけ考て作られている楽曲なのでしょう。(直感で作られているかもしれませんが…)
ただ、当時あれほどのブームを読んだ理由がわかった気がしました。