もうすでに多くも方にカバーされ、考察されてきた超名曲『カブトムシ』
今回も、カブトムシのコード進行を分析していきましょう。
全体を通して
スロウテンポなバラードソングですね。
遅いテンポは、「優しい雰囲気」「悲しい雰囲気」なんかを感じさせますが、この曲はどうでしょう?
歌詞も合わせてみてみると、「愛する人がなくなってしまった悲しさ」と「そこへの深く美しい優しい愛」歌っている曲のようです。
この曲を名曲たらしめる理由には、メロディーや歌詞とさまざまあるでしょうが、コード進行もすばらくおおくの方に評価されています。
中でも、サブドミナントマイナーや、ベースラインクリシェ(この曲ではベースラインの半音下降をさす)が特徴的です。
いずれも、もどかしさや哀愁のようなものを感じますが、この曲の『エモさ』作り出す重要な部分となっています。
イントロ
1~2小節目(E♭→Fm→Gm)
キーのE♭のスケールにそって、『E♭→Fm→Gm』と上昇していくコード進行です。
明るく、期待感が持てる進行ですが、次のコードで一転します。
2小節目(Gsus4→G)
ここで、ノンダイアトニックコード『Gsus4』『G』が入ります。
これは、セカンダリードミナントと呼ばれるもので、『Gm』を次の『Cm』に向かうドミナントコードに変換した形です。
ここまで明るい進行でしたが、一気にCmキーになったような暗い雰囲気を感じます。
3小節目(F/A)
このコードも要はセカンダリードミナント。
次の『Fm7/B♭』に進む、ドミナントコードに変換されています。
そのうえで、Fの構成音であるA(ラ)の音をベース音に持ってきた第一転回系という形をとっています。オンコードや分数コードと言われるものです。
特徴音である、A(ラ)がベースにありより色濃くノンダイアトニックな響きを感じますね。
次のコードへ半音下からアプローチする滑らかな動きとなっています。
4小節目(Fm7/B♭)
Fm7にコードとしてとどまりながら、ベース音のみB♭(シ)に動いています。
上のコードはFm7ですが、オンコードでない形に戻すとほとんど『G7sus4』と変わりません。そのためドミナントとしての力があり、次のE♭(トニック)へと自然な動きで進んで行きます。
Aメロ
1小節目(E♭)
キーはE♭。最も安定感があって明るい、E♭(トニックコード)から曲がAメロが始まります。
単純なE♭のコードですが、ここではメロディーがE♭に対する9th(D♭音)からスタートします。
どっしりと安定した感じではなく、奥行が広がりふわっとした雰囲気があります。
2小節目(B♭/D)
次の『B♭/D』はオンコードです。B♭の第一転回系と呼ばれるもので、B♭の構成音『D』をベース音にしたパターンです。
これにより、先ほどのE♭からベースラインが半音で下降するようになり、スムーズな進行になっています。
このままコードが下降していくことが予想できます。実際に、次は『Cm7』へと進んでいきます。
3小節目(Cm7→B♭m7→E♭7)
『Cm7』までベースラインが下っていくスムーズなコード進行が続いています。
Aメロは、こうした下降の進行がメインになるようです。
すると、普通であれば『Cm7→B♭→A♭』と進行するべきでしょうが、実際は『B♭m7→E♭7』と進みます。
この『B♭m7→E♭7』は4小節目のA♭M7へスムーズに進行させる工夫です。
この瞬間だけ、A♭をキーとみてツーファイブワンという進行をとっているのです。
5~6小節目(Gm7→C7→Gm7/B♭)
Gm7から4度上のコードに進みますが、3小節目のCm7 と違い『C7』となっています。
『C7』は、Fmを想定したセカンダリードミナントと考えられます。
実際には、Fmに進まずGm7/B♭を経由し、A♭へとすすみます。
FmとA♭は近しい響きをする代理コードの関係性がありますので、比較的スムーズに進行しているように聞こえます。
8小節目(A♭m)
『A♭m』はサブドミナントマイナーコードです。
文字通り、サブドミナントという役割を持つA♭が、マイナーコードに変化したものです。
E♭マイナーキーから借用してきたコードということもでき、マイナーキー特有の暗さがあります。
それを、メジャーキーの中で使うことで哀愁がある響きに感じます(感じ方は人それぞれです)。
(余談ですが、モーダルインターチェンジという解釈もできます。同主調のマイナーキーはモードという概念ではエオリアンモードと呼ばれ、そういった別のモードからコードを借りてくることをモーダルインターチェンジと言います。)
Bメロ
1~2小節目(Cm→B♭)
Bメロは、Cmからスタートします。
そのため、Bメロ単体で見ると暗さの目立つセクションで、ある意味ではCmキーに転調しているともいえそうですね。(キーE♭とキーCmは同じ音で構成されています。)
5小節目
ここは2/4小節となります。
サビ
1~3小節目(E♭→Fm→Gm→G7→G7/B)
イントロと同じような進行ですね。
3小節目では、『G7/B』と第一転回系の形をとっています。
次のCmへと半音下からアプローチする形になるので、よりCmの暗い響きが強まります。
4小節目(A♭→A♭m6)
Aメロにも出てきたサブドミナントマイナーコードがここにも出てきます。それが『A♭m6』です。
このような6thコードもサブドミナントマイナーすることができます。
メロディーもA♭からみた6thの音にいってますね。
5小節目(Gm→G♭6)
Gmは特段変わりありませんが、G♭6が特徴的ですね。
このコードは、E♭マイナーキーから借用してきた♭Ⅲというコードです。
こうすることで、きれいに半音下降する進行ができています。
メロディーもG♭から見た6thの音に行っています。
13小節目(Am→A♭6)
先ほどの4小節目と違い、Amからの半音下降となっています。
JPOPの定番パターンでいえば、ここはAm7-5となるのが定石ですが、あえてAmとしています。
このコードは、14小節目『Gm』 にツーファイブワンの動きをとるための『Ⅱm(リレイテッドⅡm)』だと考えられます。
マイナーコードへのツーファイブモーションなので先ほどよりも暗く聞こえます。
そうであると仮定するのなら、次の『A♭6 』が4小節目のようにサブドミナントマイナーではない理由がわかります。
Gmにツーファイブをとるならば、『Am→D7→Gm』ように進行します。A♭6は『D7』の代わりとなる裏コードと解釈することができ、Gmへのドミナントの役割をしているのです。
間奏
2小節目(BM7→A♭/B♭→G/B)
『BM7』もE♭マイナーキーから借りてきたコードです。
このコードは、E♭からみた短6度の音が特徴的で、サブドミナントマイナーとにた響きをしています。
ですので、サブドミナントマイナー(A♭m)の代理コードとなります。
『A♭/B♭』では、A♭までコードが動きますが、ベース音はB♭どまりな形です。
次の『G/B』で、Cmへ半音上昇するアプローチが完成しています。
『G/Bは』Cmへのセカンダリードミナントである、Gの第一転回系です。
4小節目(Am7-5→Fm7/B♭)
Am7-5(#Ⅳm7-5)はトニックの代理コード(この場合E♭)としても用いられたりします。同様にCmもトニックの代理コードですが、Am7-5はCmのルート音をそのままAまで下げた形です。
次の『Fm7/B♭』へと半音で進行するスムーズな形となっています。
まとめ
悲しさと愛情に満ち溢れた楽曲でした。
悲しみも感じるコード進行も、それがあるだけ明るい部分が目立ち、晴れやかな希望的なさまを感じさせます。
今回はコード進行を軸に分析を行ってきましたが、そのほか演奏や作詞の細部にまでこだわりやセンスを感じました。