Mr.Children、2ndアルバムKind of Loveに収録の『distance』。
1992年でシングルカットではなため、知る人ぞ知るところではありますが、リアルな情景が浮かぶ繊細で素敵な楽曲です。
コード進行を軸にこの曲の魅力を分析していきましょう。
全体を通して
全体的に暗い印象を感じる楽曲で、「夜の様な暗さ」や「寂しさ」「虚しさ」を感じます。
サビでも大きな盛り上がりがなく、平坦な曲にも捉えられます。
しかし、その「盛り上がらない」「感情が昂らない」ところに、立ち止まっている様な、いつまでも先に進んでいかない様な心情を感じさせられます。
でもこの曲は、先に進まない。答えが見つからないままでいる様に感じたよ。
イントロ
暗く響き『Dm7』から始まるコード進行ですが、四和音(セブンスコード)とテンションコードが使われているため、そこまでずっしりとした暗さではありません。
ここに、ギラギラしたギターサウンドが加わると、「街の光に灯された静かな夜」の様な情景を感じられました。
また、『Dm7』と『BM9』が使われていますが、この2つのコードの違いはベース音のみです。
コード | 構成音 |
---|---|
Dm7 | D,F,A,C |
B♭M9 | B♭,D,F,A,C |
Aメロ
1~4小節目【Fadd9→B♭add9】
先ほどの暗い雰囲気とは違って、明るさがあります。
ただ、add9コードとすることで、少し輪郭がぼやけたフワッとした雰囲気にも感じます。
この部分の解釈
歌詞を見るとどうやら別れる寸前のカップルの様です。
最後のドライブだとお互いにわかっていながらも、心地よさも感じているのでしょうか。
暗さの中に、こうしたフワッと明るい雰囲気がまじると、とても叙情的に感じますね。
5小節目【Gm7(11)】
『Gm7(11)』とテンションコードが出てきましたが、テンションの11thはC音です。
C音は、前の小節『Fadd9』の5th、『B♭add9』の9thと共通した音です。
コード | 構成音 |
---|---|
Fadd9 | F,A,C,G |
B♭add9 | B♭,D,F,C |
Gm7(11) | G,B♭,D,F,C |
常にC音を鳴らし続けているため、こうしたテンションコードとなっている様です。
ここでのC音の様に、コード進行のなかで持続された音をペダルポイントと言います。
6小節目【Gm7/C】
『Gm7/C』は、手前のコードGm7のルートのみをCにしたものですが、ドミナントセブンス(C7)の代理としてよく使われます。
ドミナントセブンスは、とても緊張感のある響きをするため、安定した『F』コードへ進もうとする力を持ちます。
『Gm7/C』とすることで、その力は少し弱まります。
また『Gm7→Gm7/C』とすれば、コードの変化も限定的なので、躍動感はない落ち着いた印象となります。
この部分の解釈
1小節目から(折り返しの8小節目からの方がテンションが聞こえやすい)『Fadd9→B♭add9→Gm7(11)』とペダルポイントを使って。『Gm7(11)→Gm7/C』ではオンコードを使って、コードの変化を限定的にしています。
また、Fへ進む力が少ない『Gm7/C』で『F』に帰結するので、なんともゆったりとしたセクションとなっています。
もし主人公に未練があるとすれば、今一緒にドライブしている時間に心地よさを感じていて、「この時間を終わらせたくない」とあえてゆっくりと車を進めている様にも感じられました。
Bメロ
1~4小節目【Dm7→B♭M9】
イントロでも使われていたコード進行です。
ここでのメロディーは、4部音符で上下の跳躍が激しいものとなっています。
何かを訴えている様な力強さを感じます。
7~8小節目【B♭M9→C7→C#dim7】
Fメジャーキーの中での『B♭→C7』の動きは、次に『F』へと進むことを期待させます。
しかし、『C#dim7』に進み、サビ頭は『Dm7』に進んでいます。
聴者は、いい意味で期待を裏切られました。
『C#dim7』は、C7とDm7の進行をスムーズにするためのパッシングディミニッシュと、Dm7に対するドミナントの役割をになっています。
C#dim7は、Dm7からみたドミナントであるA7と構成音が近しいためです。(A7♭9がより近い)
コード | 構成音 |
---|---|
C#dim7 | C#,E,G,B♭ |
A7♭9 | A,C#,E,G,B♭ |
この部分の解釈
『F』は安定感があって明るいコードですので、この一瞬は「明るく盛り上がるサビがくる!」と感じられるのですが、『C#dim7』で裏切られます。
思い通りにはいかない様子が感じ取れます。
サビ
サビとしていますが、「Bメロよりも盛り下がった」と感じる人も少なくないでしょう。
一度は心地いAメロがきて、力強さを感じるBメロが来て、でもサビは結局盛り上がれなくて…
この構成だけでも、今の恋愛がもう前に進んでいかない様な、力無さ、切なさを感じます。
これが絶妙に、辛うじてのサビらしさを演出してる!
1~2小節目【Dm7→B♭add9→Csus4→Am7】
『Dm7→B♭add9→Csus4→Am7』のコード進行の原型は、おそらく小室進行でしょう。
小室進行は、『Dm→B♭→C→F』の進行ですが、『F』を代理コードの『Am7』に置き換えて、明るさや落ち着き感を排除している様です。
コードにadd9やsus4がつくのは、F音とC音を固定持続させているためです。
これもAメロで解説したペダルポイントです。
コード | 構成音 |
---|---|
Dm7 | D,F,A,C |
B♭add9 | B♭,D,F,C |
Csus4 | C,F,G |
3~4小節目【Dm7→B♭add9→Csus4→A7】
1~2小節目との違いは、最後の『A7』だけですね。
『A7』は、Dmをトニックとしてみた際のドミナントコードです。
この楽曲をFメジャーキーと捉えるならば、セカンダリードミナントといいます。
ドミナントセブンスコードかつ、ノンダイアトニックな音が含まれるため非常に緊張感の高まるコードです。
7~8小節目【B♭add9】
明るくもフワッとした『B♭add9』が2小節続いています。
サビに入ってこれまでに感じた、暗さ、寂しさ、不安定感が徐々に安らいでいく様にかんじます。
9~10小節目【B♭add9/C】
B♭add9からルートだけがCになったコードがあらわれます。
このコードは、Aメロで出てきた『Gm7/C』と同様に、ドミナント(C7)の代わりとして働きます。
この部分の解釈
ここでも、コードの変化が少ないため、ガツガツとしていなくゆったり感じます。
なんだか穏やかな気持ちが垣間見えますね。
また、『暗いサビ→暗い間奏』と進んでいくので、飽きさせないための気分転換的にも大切な部分です。
ちなみに、『B♭add9/C』は言い換えれば、『C7sus4』です。
ただここでは、コードが進まない様な停滞感を求めていると感じたので、『B♭add9/C』と書き起こしました。
まとめ
暗い雰囲気と、時々見られる穏やかな感情を表すような表現に、切なさを感じます。
サビで爆発的な盛り上がりを見せる曲ではないため、なんだか平坦で、感情の動かない楽曲だと捉える方もいるでしょう。
ただそこに、「心が立ち止まっているような」様子を感じました。
別れる彼女を家に送る途中でしょうか。
『最後の時』となると、なんだかエモーショナルだけど、ボーっとしてしまう経験はないでしょうか。
この曲の平坦さ、ゆったり感は、そうした感情を繊細に映しているようでした。
この部分の解釈
7小節目からはバンドインするので、何か進み出した様です。
8ビートでしっかり刻まれているため、歩いているような速度感ではなく、車に乗って進んでいる様にも感じるのではないでしょうか。
さながら夜のドライブなのですが、『Dm→BM9』の進行は構成音の変化がなく停滞感があります。
心地のいいスムーズなドライブではなく、少し重たい雰囲気に包まれます。
最近の楽曲になりますが、藤井風の『きらり』は、とってもスムーズで心地いいドライブをしている感覚があります。
四つ打ちのリズムはもちろん、コードチェンジの多さと、4度進行やドミナントモーションなど推進力のあるコード進行が肝になっています。
対比すると、『Distance』にある工夫がより見えてきますね。
今回は、藤井風さんの『きらり』を分析していきます。 『ホンダ ヴェゼル』のCMソングに起用された楽曲です。 曲の爽快感と楽しくも涼し気な映像が最高にマッチしていて、青春のようなきらめきが感じられました。 ここからの内容は、er-m[…]