「クロノスタシス」は、早い眼球運動の後に起こる錯覚現象で、時計の針が止まった様に見えるのだとか。
今回は、BUMP OF CHICKENの『クロノスタシス』を分析していきます。
全体を通して
柔らかな音色のイントロから、穏やかさ、優しさを感じます。
シンセサイザーに限らず、全体的にリバーブ感が強いのも関係しています。
AppleMusicでは『Dolby Atmos』という立体音響で聞くことができますが、曲のリバーブ感相まって、壮大な奥行きを感じました。
ワンコーラスの中でのコード進行は、たった2パターンの単純な繰り返しです。
近年のEDMへの接近はこの曲からも強く感じられます。
イントロ
コード進行
2小節の『F/A→B♭→Dm7→C』を繰り返すコード進行です。
オンコードが使われていますが、このコードの原型は『F→B♭→Dm7→C』です。
『F/A』は、最も明るく安定して聞こえる『F』のベース音をA音に変えたコードで、転回系といいます。
F→B♭→Dm7→Cの進行との違いがわかれば、このコード進行の特徴が分かりますね。
▼F→B♭→Dm7→C
▼F/A→B♭→Dm7→C
メロディー
シンセサイザーの跳ねる様な柔らかな音色に加えて、メロディーも跳ねる様な上下の跳躍が見られます。
コード進行がはっきりと明るい感じではありませんが、メロディーには楽しげな雰囲気を感じます。
このコード進行が生む憂いと、メロディーの楽しげな雰囲気が混ざりあって、少し薄暗い情景を感じました。
それでいて演奏は幻想的で、「輝くオーロラを見ている」ようでした。
Aメロの歌詞でも「明け方」と言っていましたね。
Aメロ
コード進行はイントロと全く同じです。
メロディーは、上行と下行がバランスよく配置されていて、ちょうど落ち着きがある感覚です。
コードに変わりがないので、部分部分、上向きの跳躍でアクセントが付けられています。
この部分の解釈
Aメロは全体的に落ち着いたセクションです。
上向きの跳躍メロディーは緊張感を与えますが、その後には十分な下行メロディーでしっかりと落ち着かせています。
Bメロ
Bメロもコード進行は全く同じです。
Aメロに比べると、4部音符や休符が目立ちます。
Aメロに比べて、メロディーが詰まっていないため、このセクションはゆったりと感じられます。
この部分の解釈
Aメロも穏やかではありましたが、Bメロはさらに穏やかで、静けさまであります。
この曲はサビも、決して迫力があるとは言えません。
終止穏やかというか、ずっと「明け方」な雰囲気を持っています。
この穏やかさを保ちつつ盛り上がりを作るなら、Bメロは必要以上に落ち着かせる必要があります。
この曲では、演奏を静かにし、メロディーをゆったりとしたものに変えて落ち着きを演出しています。
サビ
サビはコード進行が変わり、またバリエーションがあるので重点的に解説してきます。
1~4小節目【B♭→F/A→C→Dm7】
サビの土台となる進行です。
このコード進行も、オンコードを取っ払えば『B♭→F→C→Dm7』が元になっていることが分かります。
この進行は、ポップパンク進行と呼ばれる定番の進行です。
爽やかにも感じるコード進行です。
『B♭→F/A→C→Dm7』にも爽やかさはありますが、やはり憂いが混じります。
7~8小節目【Gm7→Am7→Dm7】
『Gm7→Am7→B♭→C』とスケールを駆け昇っていく進行であれば、もっと高まりを感じたでしょう。
手前の5〜6小節目は、メロディーの高低が少なく、またゆったりと余裕のあるメロディーなので、非常に落ち着いて単調にも感じます。
そのため、7〜8小節には高まりを期待しますが、『Gm7→Am7→Dm7』と進み、少し期待が外れた印象です。
11〜12小節目【C→C#dim7→Dm7】
『C→C#dim7→Dm7』のC#dim7は、CとDm7の間を繋ぐコードで、パッシングディミニッシュと言います。
パッシングディミニッシュのC#dim7は非常に不安定なコードで、すぐにでもDm7に進みたくなる力を生みます。
この部分の解釈
ここまでワンコーラスを見てきて、これほど強制力のあるコード進行は出てきませんでした。
そのため、この部分には、どこよりも力強い印象を感じます。
メロディーも、サビで最も高い部分を連続させて盛り上がりを見せています。
この部分の歌詞を見てみると「秒針の止まった記憶の中」とあります。
もどかしさを感じる重要な言葉であり、なんとも素敵な表現です。
※この記事では歌詞にはあまり触れません、歌詞の意味も含めて楽曲を理解したいかたはこちらをご覧ください(外部サイト)
もどかしさと言えば、メロディーも。
サビで最も盛り上がりのある箇所ですが、メロディーは跳躍しているわけでなくD音・E音あたりでうずうずしている印象です。
突き抜けて跳躍できないところにも、もどかしさを感じました。
タイトルにもある重要なワードをここぞというタイミングで盛り込んでる!
まとめ
以上クロノスタシスのワンコーラスを見てきました。
なんとも叙情的で、神秘さに近いものを感じる楽曲でした。
また、もどかしくも感じるさまざまな表現方法など、勉強になるポイントがふんだんに詰め込まれていました。
この部分の解釈
『F/A』とすることで、元のコード進行に比べて落ち着き感を得られません。
また、始まりのコードとしての力も弱く感じ、唐突に始まった様な感覚があります。
どこかフワッとしていて、少し煮え切らないような、もどかしさを感じます。
ここに憂い(意味:思うようにならなくて、つらい。せつない。)を感じます