NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』の主題歌でお馴染み、BUMP OF CHICKENの『なないろ』。
爽やかさと煌びやかさ憂いを持った楽曲で、心が浄化される一曲でした。
サビも強く盛り上がるものではなく、他のセクションとの起伏をおさえ穏やかに感じます。
それでは、各セクションのコード、メロディーの特徴を見ていきましょう。
イントロ
アコースティックギターのバッキングにフィルターがかかり、遠ざかるような奥行きを感じるイントロです。
1〜2小節目【Dadd9→A/C#→C6→G/B】
『Dadd9』はローコードで弾きやすくよく使われます。(カポタスト使用)
また、『Dadd9』の構成音の内、E,A音が以降の音でも継続して使われます。
こうした、コード進行の中で固定された音をペダルポイントといったりします。
コード | 構成音 |
---|---|
Dadd9 | D,F#,A,E |
C#/A | A,C#,E |
C6 | C,E,G,A |
『C6』はノンダイアトニックコード ですが、ペダルポイントもあって前後のコードとの変化が少なく、経過音としての要素も強く感じます。
このコードの正体は、同主短調(主音が同じな短調)であるAマイナーキーから借りてきたコードです。
サビなどでは、この響きをもっと強く感じられます。
3〜5小節目【Esus4→E→Dadd9】
『E』は、Aメジャーキーの上でドミナントという役割を持ちます。
ドミナントは緊張感の強いコードで、落ち着きを求めてトニックという役割のコード(A)へ進もうとします。
- チェック:「トニック」とかってなに?
- 音階の一番目の音をトニック、四番目の音をサブドミナント、五番目の音をドミナントと言います。 また、ダイアトニックコードの一番目のコードをトニックコード、四番目のコードをサブドミナント、五番目のコードをドミナントコードと言い、それぞれをコードの機能といいます。 簡単に言うと、トニックコードは安定的。ドミナントコードは非常に不安定。サブドミナントはその中間的なイメージです。 ▷トニック・サブドミナント・ドミナントについて詳しくはこちら
『Esus4→E』が入ることで、Aへの進行が遅れ、わずかな焦らしが産まれています。
加えて、実際に進行するのは『Dadd9』のため、またも大きく焦らしを受けます。
4〜5小節目
『Dadd9』の上で、エレキギターのフレーズが鳴っています。
同時にベースがなり、重々しさを感じます。
サウンド面の重さの変化が、さらに緊張感を作り出します。
手前の『Esus4→E→』の進行にあった焦らしと相まって、早く落ち着きたい感覚になり、Aメロへの期待感も膨れていきます。
高い音も低い音も使われるフレーズですが、
Aメロ
1〜2小節目【A→D/A→E/A→A】
オンコードの形をとっていますが、まず分母を無視して『A→D→E→A』の進行としてみていきましょう。
この進行は、最も安心した響きの『A』コードから始まり、緊張感のある『E』を経由して、またAに戻ってくる進行です。
そうした起承転結のはっきりした進行ですが、ベースがA音にとどまっています。
これにより、コード間の変化は少なく、最初の安定感を程よく保った進行となっています。
3~4小節目【Dadd9→A/C#→Bm7→E】
D→C#→Bと、ルートが降っていく進行です。
1〜2小節のメロディーは、ほどよく高まりをかんじましたが、3〜4小節目はコード進行の下りとリンクして、メロディーも落ち着きのある下行メロディーとなっています。
5~6小節目【C#m7→D→E→Fdim→F#m】
C#m7から順次上行していく進行で、徐々に緊張感が高まっていく様に感じられます。
ノンダイアトニックコードである『Fdim』は、パッシングディミニッシュと呼ばれるコードです。
前後のEとF#mのコードを半音で繋ぎ、コード進行をスムーズにする力があります。
また『Fdim』は、F#mに対するセカンダリードミナントとしての役割があるため、緊張感の高まりに加えて、F#mのもつ雰囲気が濃くなっています。
- チェック:セカンダリードミナントとは?
- セカンダリードミナントは、ダイアトニックコード一番目のコードであるトニック(『I』あるいは『Im』)以外のダイアトニックコードを一時的なトニックと見立てて、その5度上のコードをドミナントコードに変化させたものです。 ▷セカンダリードミナントについて詳しくはこちら
7〜8小節目【F#m→A/E→D→Bm7/E】
『F#m→A/E→D』は、ルートがF#から下行する進行です。
同時に下行するメロディーをのせることで、5~6小節目に感じた緊張感から解放されていく様な落ち着きを感じさせます。
『Bm7/E』はJPOPでもよく使われるコードで、単純にE(ドミナント)の代わりとして用いられています。
そのため、『A』に進みたくなる力があるのですが、『E』や『E7』ほど強くありません。
この部分の解釈
『F#m→A/E→D』では、『A/E』を使うことで、すべてのコードでA音が鳴る様になっています。
コードの動き最小限になるため、力強くはなく、スムーズで穏やかなコード進行となります。
コード | 構成音 |
---|---|
F#m | F#,A,C# |
A/E | E,A,C |
D | D,F#,A |
Bm7/E | E,B,D,F#,A |
加えて『Bm7/E』は、通常のドミナントよりも緊張感がなく、穏やかにAへと進んでいきます。
5〜6小節目と対比して、脱力している様な雰囲気を味わえる進行でした。
主人公の心にも、ゆとりがある様に感じたよ。
アコースティックギターのバッキングからは、固定されたA音がよく聞こえると思います。
Bメロ
1〜2小節目【Bm7→C#m7→F#m7】
Aメロとは一転、暗い雰囲気が漂うコード進行です。
『Bm7→C#m7→F#m7』の進行は、本来のキー(Aメジャー)の平行調であるF#mキーの雰囲気を強く感じさせるからです。
この部分の解釈
Aメロにあった快活さは感じられず、落ち着き、あるいは落ち込みに似た様子を感じます。
また、この部分のメロディーは、大きく上下に触れず単調で、若干尻下がりですが。
気持ちの昂りはなく、「神妙な様子」「理性的に物事を考えている」みたいな様子を感じました。
3〜4小節目【DM9→A/C#→C6→E/B】
ルートを見てみると、DからBまで半音で下行する進行だとわかります。
3小節目のメロディーは、上向きの跳躍があり、緊張感と明るさがあります。しかし、コード進行が下行していくために、明るさはあまり感じません。
『C6』はノンダイアトニックコード のため、強い緊張感があって、とても不安な感覚に包まれます。
メロディーでも、ノンダイアトニックなC音が使われているため、この力は一層強く感じます。
5〜6小節目【Bm7→C#7→F#m7→A/E】
Bメロ1〜2小節目の進行とほとんど同じですが、『C#7』だけ異なります。
『C#7』は、F#m7に対するセカンダリードミナントです。
F#m7を一時的なトニックととらえるため、1〜2小節目よりもF#mの暗い雰囲気が強まります。
- チェック:セカンダリードミナントとは?
- セカンダリードミナントは、ダイアトニックコード一番目のコードであるトニック(『I』あるいは『Im』)以外のダイアトニックコードを一時的なトニックと見立てて、その5度上のコードをドミナントコードに変化させたものです。 ▷セカンダリードミナントについて詳しくはこちら
また、『A/E』を挟むことで、次の小節の『D』へとスムーズに進行しています。
この部分の解釈
1〜2小節目とのコード・メロディーの変化が、物語の上での変化も感じさせます。
なにより、セカンダリードミナントの緊張感が、大きな変化の予兆にも感じました。
7〜9小節目【D→A/C#→Bm7→C6→E】
『D→A/C#→Bm7→C6』は、Bメロ3〜4小節目のコード進行に似ていますね。
ただし、Bm7が前に来ており、半音下行の進行ではなくなっています。
この部分の解釈
半音下行の中の『C6』は、イントロの際に説明したペダルポイントも効いているため、経過音的に作用しスムーズな進行となっていました。
半音下行の進行から外れた今回の『C6』は、強く不安定で、緊張感を出します。
ダイアトニックコードの『E』に進むことで、いくらかの安心感がありますが、ドミナントなのでやはり緊張感があり、「次のサビ頭に早く進んで安心したい!」と気持ちが高まります。
サビ
1〜4小節目【Dadd9→A/C#→E7→F#m7】
ディグリー表記にすると『IV→I→V→VIm』の進行です。
この進行は、ポップパンク進行と呼ばれ、爽やかなコード進行です。
以前に解説した、BUMP OF CHICKENの『RAY』『クロノスタシス』のサビでも使われる進行です。
ただ、ポップパンク進行なら本来『A』であるコードが『A/C#』となっています。
『A』に進んだ時には落ち着きや、安心をかんじますが、その力が弱まり、少し落ち着かない雰囲気があります。
5〜6小節目【Bm7→A/C#】
上行の進行に、上行のメロディーが一瞬の緊張感を高めます。
この部分の解釈
サビは、Aメロに比べてコードチェンジが少なくどうしても落ち着いた印象になってしまいます。強い上行メロディーは緊張感が生まれますが、また迫力もあります。
1〜4小節目は、メロディーが高いところをいきますが、サビにしては迫力にかける印象です。
それをサポートするのが5小節目となります。
7小節目【C6】
『C6』は同主短調から借りてきたモーダルインターチェンジコードです。
1小節もの長い間鳴らされるため、これまでよりも強く浮いたように感じます。
この部分の解釈
足元がなくなり、落ちるような不安感、浮遊感があります。5小節目が駆け上がるようなメロディーだったために、「高さ」のエネルギーが生まれ、そこから落ちていくようです。ここはMVとリンクしているようにも思えます。
9〜12小節目【Dadd9→A/C#→E7→Fdim→F#m7】
手前8小節がサビのひとまとまりです。
9〜12小節目は、1〜4小節目の進行を繰り返す形ですが、『Fdim』が加わっています。
『Fdim』は、前後のE7とF#m7を繋ぐ経過音的コードでパッシングディミニッシュと言います。
また、上行のパッシングディミニッシュの仕組み上、F#m7に対するセカンダリードミナントの役割も担い、強い緊張感が生まれます。
13〜14小節目【Bm7→A/C#→C6】
メロディーの上行と、『C6』があることに変わりませんが、C6が2拍と短くなっているます。
加えて、次の小節で上行の進行にすぐ切り替わるため7小節目ほどの不安感は感じられません。
次の進行も加味すれば、前向きな様を感じます。
この部分の解釈
イントロの最後は、Dadd9で2小節とどまるコードだったため、立ち止まっている様な印象がありました。
Aメロ冒頭は、コードが動き、物語の主人公も動き出した様な感覚があります。
ただ、ガツガツと力強い動きではなく、ベースがAで停滞することで、落ち着きや穏やかさが保たれている印象です。