初音ミクとのコラボで当時話題を呼んだBUMP OF CHICKENの『RAY』。
4つ打ちのビートと、時に生き生きとしたメロディーに、自然と体が跳ねてしまう様な楽しげなノリを感じる一曲です。
コード進行やメロディーから、楽曲の魅力や作曲意図を分析していきましょう。
イントロ
柔らかい音色のシンセサイザーが心地いいイントロフレーズ。
メロディーは、サビメロに近強いですが、比較的緊張感が抑えられたものとなっています。
出だしは、上下に跳躍していて、生き生きとして印象が感じられます。
4つ打ちのビートと相まって、飛び跳ねている様な楽しげな雰囲気となっています。
1〜4小節目【A♭→A♭→A♭→E♭】
A♭コードのギターバッキングだけが3小節の間続きます。
この段階では、キーがどこか判断できません。
4小節目でベースがE♭を連想させるフレーズを弾き、5小節目に入りやっとキーが確定して聞こえます。
5〜6小節目【A♭→B♭→Cm】
この曲のキーはE♭です。
E♭キーで『A♭→B♭』のコード進行がなると、次に『E♭』へ進みたい力が強まります。
この部分の進行は、E♭へ進む期待を裏切り『Cm』へ進む、偽終止と呼ばれる進行です。
E♭に進む場合と比べて「落ち着いた」「ひと段落した」感覚が少なくなります。
この部分の解釈
私たちは、知らず知らずに「落ち着くこと」を求めています。
Cmでは期待している「落ち着き感」を得られないため、この期待は先延ばしになります。
Aメロの頭でE♭へ進行しますが、ここで一度大きな「落ち着き感」を感じられるかと思います。
11〜12小節目【Fm7→Gm7→A♭m→B♭m】
『IIm7→IIIm7→IVm→Vm』と、マイナーコードの形で上行の並行移動をする進行です。
『A♭m→B♭m』はノンダイアトニックコードで、E♭マイナーキー(同主短調)からA♭(IVm)とB♭(Vm)を借りてきたものです。
同主短調(例えば、E♭キーに対するE♭マイナーキー)からコードを借りてくる手法はよく使われます。
Aメロ
Aメロは、イントロにくらべてメロディーが低く、明るく落ち着いたコードが中心にあるため、比較的穏やかに感じます。
1~2小節目【E♭→A♭→E♭/G】
イントロは少し忙しない感じがありましたが、Aメロの出だしは落ち着きを感じます。
『E♭』は落ち着きを感じるコードですが、E♭から始まり、A♭、そしてすぐにE♭(E♭/G)へと進行しています。
『A♭→B♭→Cm』と進行していたイントロに比べると、やはり落ち着き・穏やかさを感じやすい進行であるとわかります。
また、『E♭/G』はE♭の構成音Gをベースに置いた形で、E♭の第一転回系と呼ばれるコードです。
通常のE♭に比べて、「落ち着き感」は少なく、先に続きがある様に感じます。
相対的にみて、落ち着いた様に感じるよ!
ちなみに
もっとも落ち着きを感じるのはE♭への進行です。
例えば、『B♭→E♭』の進行で、メロディーもE♭(主音)に行き着くものを、完全終止と言います。
メロディーが主音でなかったり、E♭を分数コードなどにしたものを不完全終止と言います。
ある程度の落ち着き感は得られますが、この先もまだ続く雰囲気が感じられます。
4小節目【Fm7→B♭→Bdim】
『Fm7→B♭』の進行も、次に『E♭』へ進む期待を生みます。
実際は、E♭には進まず『Bdim』に進み、次の小節で『Cm』へ進んでいます。
Bdimは、B♭とCmの間に入りコード進行をスムーズにする役割があります。
こうした経過音的に扱うディミニッシュコードをパッシングディミニッシュと言います。
この部分の解釈
本来はE♭に進みたいのに、ノンダイアトニックなBdimが入ることで一気に緊張感が高まります。
詳しい解説は省略しますが、『Bdim』は、次の『Cm』に対するセカンダリードミナント『G7』の代わりとなるので、Cmが持つ暗い雰囲気を強めます。
一瞬の驚きと暗い方向へと進んでいく不安感が、手前3小節のシンプルで明るい雰囲気を打ち破り、浮き沈みを作りだします。
- チェック:セカンダリードミナントとは?
- セカンダリードミナントは、ダイアトニックコード一番目のコードであるトニック(『I』あるいは『Im』)以外のダイアトニックコードを一時的なトニックと見立てて、その5度上のコードをドミナントコードに変化させたものです。 ▷セカンダリードミナントについて詳しくはこちら
5~6小節目【Cm→CmM7/B→Cm7/B♭→F/A】
『Cm→CmM7/B→Cm7/B♭』の進行は一見難解に見えますが、簡単に見ると同じCmが続いていることがわかります。
この進行は、Cmのコード構成音の『C(ルート)』を半音づつ下げていったものです。
こうした、コード構成音を半音や全音で上げたり下げたりする手法をクリシェと呼びます。
CmからC の音を下げていくと、Cm7/B♭の次は『Am7-5』になります。
この様なCm(VIm)からのクリシェでは、『Am7-5』あるいは、構成音の近しい『F』や『F7』へと進むケースがほとんどです。
7~8小節目【Fm7→Gm7→A♭】
Cmからの下行クリシェ進行は、とても緊張感があり、かつ暗い雰囲気の強いものでした。
『Fm7→Gm7→A♭』は、それを打ち消す様な上行進行です。
同時にメロディーも上行メインの形なので、高揚感があります。
Bメロ
Aメロの出だしと比較すると、1コード1小節で始まり、メロディーも4部音符で始まっています。
そのため、Bメロは少しゆったりと感じるセクションです。
7小節目【A♭m】
『A♭m(IVm)』は、イントロでも出てきたコードで、同主短調のE♭マイナーキーから借りてきたものです。
メジャーキーの中で、使われるこうしたIVmコードは、サブドミナントマイナーコードと呼ばれたりします。
この部分の解釈
イントロで出てきた時に比べて、しっかりと1小節間鳴っており、A♭mの響きを十分に感じられます。
サブドミナントマイナーコードは、少し暗く哀愁を感じるコードです。
また、ノンダイアトニックコードなことと、メロディーの上行によって非常に強い緊張感を感じます。
「早く落ち着きたい」その気持ちが、何かソワソワとした感覚さえ感じさせます。
8小節目【B♭sus4→B♭】
『B♭sus4→B♭』は、B♭に進行する前に、sus4コードを置いた進行です。
sus4コードがあることで、B♭への進行が一旦遅れます。
先ほどの7小節目のA♭mもあり、すぐにでもE♭へ進んで落ち着きたい中、B♭への進行も遅れ、さらなる焦らしが生まれています。
サビ
イントロと近しいメロディーが使われており、1小節目の上下の跳躍から躍動感が生まれています。
1~2小節目【A♭→E♭→B♭→Cm】
『A♭→E♭→B♭→Cm』は、サビでメインとなる進行です。次の3〜4小節目でも現れます。
このコード進行は、ポップパンク進行と呼ばれる定番のコード進行です。
切なくも爽やかに感じる進行です。(もちろん感じ方は人それぞれですが…)
最近の楽曲で言えば、ヨルシカの『ただ君に晴れ』で同じ進行が使われています。
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5~6小節目【A♭→B♭→Bdim→Cm】
A♭から上行していくコード進行です。
『Bdim』はAメロでも出てきたコード進行で、Cmへの進行感を強めるパッシングディミニッシュです。
また、B♭上では、メロディーにノンダイアトニックトーンのC#(刺繍音)が含まれています。
Bdimの上では、GからE♭への短6度跳躍があります。
ノンダイアトニックコード・トーンや、上行の跳躍メロディーはいずれも緊張感を高めます。
7~8小節目【A♭→B♭→E♭sus4→E♭】
5~6小節目は非常に緊張感の高まる部分でしたが、7~8小節目は反対に強い落ち着きを感じさせます。
コードがE♭へ解決・終止すること、メロディーの下行・下行跳躍がこの落ち着きを演出しています。
これが良い溜め・焦らしのポイントとなっています。
まとめ
この楽曲には、イントロから生き生きとした様子を感じました。
RAYは初音ミクとコラボした楽曲でもあるため、生き生きと跳ねる様な様子はとてもマッチしています。
ただ、全体を見てみるとただ素直に明るい楽曲でなく、憂いを感じます。
メロディーやコード進行の上行、『E♭』の使い方などで、適度に明るさ、前向きさがコントロールされています。
この部分の解釈
A♭が続く3小節間には焦らしの効果があり、「次にどんな展開があるのか」期待を煽ります。
例えば、「注文した料理が届くまでの待ち時間」や「テストが返される時の順番待ちの時間」など、焦らされる時間があるからこそ、その先の物語や結果が気になって仕方なくなるのです。