今回は、竹内まりやの『元気を出して』をコード進行中心に分析していきます。
失恋で心を痛めている女性を励ます曲で、優しく包み込んでくれるような愛さえ感じます。
なんとも「包容力のある曲」ですね。
全体を通して
アコースティックギターの音色が暖かく心地いい一曲です。
ワンコーラスの中でも、部分転調する箇所が2回見られます。穏やかで、平坦な曲かと思いきや、非常に緊張感のあるアプローチを上手く溶け込ませています。
イントロ
1〜2小節目【CM7 – FM7 – G – Am】
非常に安定的で明るいコード進行です。
C(トニック)→F(サブドミナント)→G(ドミナント)
の動きは、次にCへと進むことを自然と意識させます。そのために明るく感じるコード進行なのです。
実際、ここではAmへ進みますが、4小節目でCM7に解決します。
3〜4小節目【FM7 – F/G | CM7 – Dm7/G -G7】
F/G
『F/G』は、Fに近いため同様にサブドミナントと考えることができますが、ドミナントの代理として用いられることもあります。
F/Gを言い換えると、G7sus4(omit5)とも表現できます。
Cへとドミナントモーションをするセブンス系こコードであることがわかります。
前がF(サブドミナント)、後がC(トニック)なので、ここはドミナントと考えていいでしょう。
Dm7/G
『F→F/G→C』の進行よりも解決感が増し、一つのセクション(イントロ)が終わることがイメージできます。
Aメロ
2小節目【G/B】
ドミナントであるGの第一転回系です。
ルートをBにする事で、C→B→Aというベースラインのスムーズな動きになっています。
3小節目【Am7→D7】
D7はセカンダリードミナントで、4小節目のGを一時的なトニックと見立てドミナントコードにしたものです。
キーCのドミナントである、Gに対するドミナントなので、ダブルドミナント(ドッペルドミナント)と呼ばれたりします。
6小節目【E7→Am】
E7は、セカンダリードミナント。Amを一時的なトニック見立てドミナント化されたものです。
Bメロ(B♭キーへ転部分調)
1〜4小節目【E♭M7 〜】
3〜4小節目(Cm7→F7→B♭M7)の進行を見ると、この部分はB♭キーに部分転調しているようです。
4〜5小節目【Bm7-5→E7→Am7】
『Bm7-5』は、キーCのダイアトニックコードです。『Bm7→E7→Am』とマイナーツーファイブの動きをとりキーC(Am)へと戻ります。
B♭M7のベースを半音上げるとBm7-5と同じ構成音になります。
B♭M7からBm7-5への侵攻が意外にもスムーズな理由です。
6小節目【D7】
このコードは、Aメロでも見られたG7に対するセカンダリードミナント(ダブルドミナント)です。
7〜8小節目【F/G→G】
Aメロでは「F/G』をドミナントなら代わりと表現しましたが、ベース音以外Fなので、サブドミナントとも言えます。
このあと、Gに進むのでこのコードはサブドミナントに値するでしょう。
『サブドミナント→ドミナント→トニック』と解決する進行です。
Aメロ
Aメロと同じメロディー、ほとんど同じ進行なので、同じくAセクションとします。
7小節目【F#m7-5→FM7/G】
最初のAセクションと違う点が、このコード。
本来D7(ダブルドミナント)となっていた箇所が、『F#m7-5』となっています。
Cから見た、#Ⅳm7-5は様々な解釈ができますが、もともとD7だったところを考えると、D7の代理として使われているコードとするのが妥当でしょう。
F#m7-5とD7の構成音はほとんど同じなので、いずれもG7へ進む力が一定あります。
コード | 構成音 |
---|---|
D7 | D,F#.A,C |
F#m7-5 | F#,A,C,E |
次の『FM7/G』は、F/Gよりもドミナント感が弱く、Cへの解決感が薄まります。
Cメロ(同主短調への部分転調)
1〜2小節目
この部分だけ切り取るとⅣ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵmの王道進行となっています。
ただし、1小節2拍目『G/F』。ベースをFで留めているかたちです。
4小節目
ここは、5小節目のFへとツーファイブワンのモーションをとっています。
Gm7/CがリレイテッドⅡm、C7がセカンダリードミナントです。
この進行が部分転調のきっかけとなります。
5〜6小節目
メロディーがA♭へ行くこと。そして、E♭M7へツーファイブワンのモーションをしていることから、一時的にE♭(Cm)キーへ転調していることがわかります。
7小節目【Dm7】
『Dm7』を起点にキーCの世界に戻ります。
まとめ
Aメロが楽曲の中心となる特殊な構成でした。Aメロが素晴らしいメロディーに歌詞、コードであるから成立しているのでしょう。
また、サビというサビがなく緩急は少ないですが、部分転調をうまく用いて緊張感と安心感を演出しています。
緊張感が不安定な進行から、安定したコードへと戻った時の安堵感。そして心地よい落ち着きが、目線を合わせ慰める優しさを感じさせます。