昨今のシティポップブームの中心ともいえるのが、竹内まりやのプラスティック・ラブです。
全体を通して
浮遊感のあるコードに、エレクトリックピアノの音色が目立つイントロの時点で、すでに都会的な雰囲気を感じます。
Dmのダイアトニックコードから外れた音も多く、大きな緊張感や不安定感のあるコード達が楽曲に奥行を作ります。
都会の喧騒、不安、夢、希望。こういうのが絡み合って混沌としている様子が、複雑なコード進行を生んでいるのかもしれないね。
その暗さがまた、『夜』の雰囲気を感じさせます。
イントロ1
1小節目【B♭M7→F/A→Gm9】
『B♭M7』からベースが下行していく進行です。
トップノートがA固定されているため、統一感があります。
- B♭M7のM7th(A)
- F/AのM3rd(A)
- Gm9の9th(A)
2小節目【Gm7/F→E♭9,13】
『Gm7/F』はGm7の第三展開系で、1小節目に引き続きベース音下行の流れを保っています。
『E♭9,13』は、2通りの解釈ができます。
一方は、♭Ⅶ(サブドミナントマイナー)という解釈。
もう一方は、Dmに対する裏コードです。
ここで解決してもいい雰囲気があるので、1小節飛ばした4小節目のDに対する裏コードだと考えられます。
Bメロで『E♭9,13』が再度現れますが、そこではDmへ進行しているのも理由の一つです。
3~4小節目【B♭M7→Am7→Dadd9】
先ほどまでは、裏コードで偽終止だったこともあり緊張感強い状態です。
3~4小節目は、各コードトーンをなぞり下っていくメロディーが特徴的で、DのM3の音に行きつきます。
メロディーの下行は落ち着きを感じさせるので、これまでの緊張を徐々に緩和し解決します。
『Dadd9』は、Dmのm3rdが半音上がりメジャーコードになったものです。(9th音も付加されている)
イントロ2
ここでの4小節は、この楽曲の土台となるコード進行です。
4小節で1周し、繰り返されます。
2小節目【C7♭9】
『C7』は、F(トニック)に対するドミナントコードです。
しかし、実際にはFへ進行せず、Am7へ偽終止します。
Am7もトニックの機能があると分類されるため、Fの代理コードに進んだと思えば違和感のあるコード進行ではありません。
ただ、そのままでは接続が滑らかではないので、♭9が付加されています。
通常、C7からFへ解決する際は、C7のトライトーン(M3rdとm7thの音程関係)がFの構成音へ半音解決することで解決感が得られます。
Am7への進行では、半音解決が1か所のみなので解決感は弱まりますが、♭9がAm7のm3rdに半音で進行します。
Aメロ
Aメロの進行はイントロと変わりません。
ここではメロディーを見ていきましょう。
1小節目:うきうきと弾むメロディー
音符をみても、跳躍したメロディーが上に下に行ったり来たりとしています。
体が自然と弾む、ウキウキとしたメロディーになっています。
この後の歌詞を見ると切なさを感じる部分が多いけど、切ない感情の中で一喜一憂する主人公がイメージできたよ!
3〜4小節目:下行で落ち着く
1小節目でも見たモチーフが、3〜4小節目にかけては下行するメロディーで終わります。
ウキウキとした気持ちを沈める、抑え込むように、下行メロディーで落ち着かせています。
主人公が恋に楽しみきれずに、悲しさも抱えている状況がイメージできました。
8小節目:Bメロへの緊張感の演出
Aメロ最期は、Bメロのメロディーがアウフタクトしています。
この上行メロディーからは緊張感を感じ、BメロGm9の9th音に行き着きます。
Bメロ
2〜3小節目【E♭9,13→Dm7】
イントロ1でも出現した『E♭9,13』です。
このコードは、Dm7に対するドミナントのA7コードの代理として使われている裏コードです。
A7と同じトライトーンを含むため代理として機能しています。
マイナートニックへの裏コード解決は、Jpopで頻繁に見られる進行ではありません。
KIRINJIのエイリアンズなど、ジャジーで都会的な楽曲でよく使われている印象です。
4小節目【G9】
『G9』は一小節飛ばした6小節目のC7♭9,13へのセカンダリードミナントです。
5小節目のGm7が間に入りますが、Cを一時的なトニックに見立てドミナントコードにしたものです。
メロディー
Bメロ2段目では『♩♫』のモチーフが頻繁に使われます。
4小節目のコード『G9』とメロディーの緊張感を、緩やかなリズムで徐々に緩和していきBメロを終えます。
Cメロ前半
青く塗りつぶされたいる部分はBメロです。
1〜2小節目【B♭M7→C6】
『C6』は、Am7(Ⅲm7)と同じ構成のコードです。
C7よりは安定していて、ここからさらなる緊張感が訪れそうです。
5〜6小節目【Em7→A7♭9→Dm7】
『Em7→A7♭9』がツーファイブのモーションとなりDm7に解決します。
マイナートニック(Dm)へのツーファイブは通常、Em7-5が使われますが、ここではEm7を利用しています。
ノンダイアトニックトーンのBが含まれ、より緊張感が増しています。このツーファイブパターンも『エイリアンズ/KIRINJI』見られました。
7〜8小節目【B♭M7→C7→Am7→Dm7】
ディグリー表記でコードを見てみると『Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm』の王道進行の形となっています。
Cメロの中でもっともコード遷移する部分で、勢いがあります。
Cメロ後半
Cメロ前半の進行、メロディーを繰り返していますが、最後の解決するコード進行だけ異なります。
7〜8小節目【B♭M7→Am7→Dadd9】
イントロ1の終わりと同じ進行です。
メロディーもた高いところ(A)から、低いところ(D)へと下がり、落ち着きが生まれています。
まとめ
都会の夜の雰囲気を感じる洗練された一曲でした。
70〜80年代のシティ・ポップと言えば、おしゃれで複雑なコード進行の楽曲が多く、演出する世界観のクオリティも非常にたかい。そんな印象があります。
深みがあって情緒的な世界観に、ノスタルジーな感覚さえ覚えます。
楽曲、演奏、コードワーク、メロディー。どれをとっても現代のJpopとは異なり新鮮です。