ヨルシカの2ndミニアルバム「負け犬にアンコールはいらない」に収録の『ただ君に晴れ』。
Youtube再生回数は、ヨルシカの楽曲の中でも随一です。
ヨルシカ最大のヒットソングとも言える代表曲です。
コード進行やメロディーから楽曲を分析し、作曲背景や魅力を深ぼっていきましょう。
全体を通して
サビまでは4つ打ち(ダンスビート)のタイトなノリで、生き生きとした様を感じます。
サビになると、ビート、バッキングは変わり、疾走感と情熱感じるサビらしい迫力のあるサウンドになります。
それでいて、ノスタルジーな雰囲気も感じたよ!
コード進行やメロディーの印象等、深掘りしていきましょう。
Aメロ
1〜2小節目【B♭add9→F→C→Dm7】
『B♭add9→F→C→Dm7(IV→I→V→VIm)』は、ポップパンク進行といった呼び名で親しまれる定番のコード進行です。
前半は明るくも、VIm(暗い印象のコード)に解決してしまうため、少し切なさを感じます。
この塩梅が、「暖かくも涼しげな風が吹いているような」爽やかな雰囲気を演出します。
青春感があって、キラキラとした情景が思い浮かぶなー。
メロディーの特徴
休符が多く、音があまり詰め込まれていません。
ゆとりがある緩やかな速度感で、穏やかさを感じます。
メロディーはペンタトニックスケール中心ですが、程よくM7(ミ)の音が使われています。
出だしの音を見てみると、B♭M7に対する13th(G)、Fに対する9th(G)と安定感の無いテンションノートに当たってます。
かっちりとしておらず、少し儚くも聞こえるのではないでしょうか。
間奏
「ただ君に晴れ」といったら、「このギターリフ!」ではないでしょうか。
『IV→I→V→VIm』の爽やかなコード進行と、日本的な雰囲気のあるペンタトニックフレーズが、懐かしみも感じる「エモさ」を感じさせます。
コード進行は、B♭add9コードを使わなくなり、比較的素直でどっしりと力強い演奏となっています。
ちなみに
冒頭Aメロでは、歌詞に「あの夏の君を〜」とありました。
少し忙しなくも、煌びやかで美しいあの夏を思い返している様な気持ちになりました。
サビ前(Aメロ)
この曲は、大まかに『Aメロ(8小節)→間奏(8小節)→Aメロ(16小節)→サビ(8小節)』と進行しています。
ここでは、Aメロの最後の8小節(サビ前の8小節)を楽譜に起こしています。
7~8小節目【B♭→F→C→F】
これまでは、『B♭→F→C→Dm7(VIm)』の進行でしたが、『B♭→F→C→F(I)』と明るい印象のFコードへ変化しています。
ドミナントと呼ばれる『C』から『F』の進行を終止と呼びます。
メロディーもF音で終わるので完全正格終止と呼んだりします。
強い安定感、落ち着きが得られる進行で、曲がひと段落した様な明確な区切りとなっています。
ちなみに
サビへの導入といえば、今回の様な一旦落ち着くパターンと、ドミナントコードで緊張感を高めるパターンがあります。
ヨルシカの楽曲では、しばしば「一旦落ち着くパターン」が使われています。
例えば、『左右盲』『花に亡霊』『春泥棒』『負け犬にアンコールはいらない』『昼鳶』などが同じ様に、サビ前で一旦落ち着きます。
流れが打ち切られ、明確に新たなセクションが始まることがわかるので、サビとそれ以外のギャップをつけやすい利点があります。
その一方で、ギャップがつきすぎれば一貫性がなくなりますし、サビまでが文脈を汲みづらくあります。
個人的には、サビらしさや、他のセクションとのギャップ感を重視している様に感じます。
そのため、この様に一旦落ち着かせるサビ前を作っているのかもしれません。
サビ
1〜2小節目【Dm7→B♭→C→F】
『Dm7→B♭→C→F(VIm→IV→V→I)』は、小室進行といった相性で親しまれる定番のコード進行です。
これまでの進行とは反対に、暗いところから明るいところへ進む進行です。力強く、暗かった世界に明るい光が差し込む様なポジティブな雰囲気の一方、少し儚い様な雰囲気まで感じます。
以前分析した『昼鳶』と同じコード進行ですね。
メロディーの特徴
最初は緊張感ある上行フレーズで作られています。
ただ、1小節ごとに、上行と下行を繰り返しており、4小節全体でみると緩やかに上下している音符の流れが見えてきます。
音域も広くなく、スムーズで落ち着きのあるメロディーです。
ただし、休符の少ないメロディーで、ドラムのビートチェンジもあるために、これまでに比べて「勢いが増した」印象を覚えます。
間奏2
ギターのバッキング中心で、静かさと落ち着きがあるセクション。
少しネガティブな心情を感じさせる様な暗めのコード進行が特徴的です。
1〜2小節目【Dm7→C7sus4→B♭M7→Am7】
Dm7(VIm)から下行していく進行です。
『Dm7→C7sus4→B♭M7』Dm7でいうm3の音(F)を、sus4などを使って固定して鳴らしています。
こうしたある構成音をコード進行の中で固定する演奏をペダルポイントと言ったりします。
コードの変化が限定的になり、遷移がスムーズになります。
3~4小節目【B♭M7→C7→C#dim7→Dm7】
先ほどの2小節でDm7から下がっていったコード進行が、ここから上がっていきます。
この上昇を力強くしているコードが『C#dim7』です。
このコードは、『C7』と『Dm7』のちょうど間にあるディミニッシュコードで、パッシングディミニッシュと言います。
あるコードの半音下のディミニッシュコードは、行き着くコードに対するドミナントセブンスコードの様な強い力があります。
詳しくは、『パッシングディミニッシュ』についてご覧ください。
10小節目【Bm7-5→A/C#】
『Bm7-5』は、B♭M7のルートを半音あげると生まれます。
そのため、『B♭→Bm7-5→C』の様に、B♭とCを繋ぐ経過音的に使われることがよくあります。
『A/C#』は、Dm7をトニックと見立てた際のドミナントに当たるコードで、セカンダリードミナントと呼ばれます。
- チェック:セカンダリードミナントとは?
- セカンダリードミナントは、ダイアトニックコード一番目のコードであるトニック(『I』あるいは『Im』)以外のダイアトニックコードを一時的なトニックと見立てて、その5度上のコードをドミナントコードに変化させたものです。 ▷セカンダリードミナントについて詳しくはこちら
この部分の解釈
前の小節から見てみると、『Gm7→Am7→B♭M7→Bm7-5』と、上行の進行です。
この流れは、次に『C』への進行を予感させます。
ドミナントであるCにいくと、そのまま『F』へ進行したくなります。
ここでは、ノンダイアトニックコードである『Bm7-5』で緊張感を出し、加えて『C』への上行を裏切ります。
真の進行先は『A/C#(セカンダリードミナント)』で、不安感じる暗い雰囲気が漂います。
その後の落ちサビ
これまでのコード進行と、手間の『A/C#(セカンダリードミナント)』で、Dmのトニック感が強まっています。
落ちサビのコード進行自体、間奏とほとんど同じもので、不安で暗い雰囲気です。
ラスサビは、半音上へ力強い転調をしており、落ちサビの不安感を一気に跳ね除けます。
強いストーリー性を感じ、曲の世界へ没入していきます
ちなみに
イントロも入れずに、間奏前にわざわざ配置されたセクションです。
歌詞を見てみると、「月」「クラゲ」「バス停の背を覗く」「あの夏」「君」と特徴的なワードが多く出ています。
コード進行の爽やかさと合わせて考えると、曲の景色がおおむね想像できるのではないでしょうか。
この曲の主役とも言える次の間奏までに情景を想像させておくことで、言葉のない間奏が表す景色がより鮮明になります。