【ノンフィクション/Saucy Dog】コード進行と分析

シンデレラボーイのヒットがまだ記憶に新しいSaucy Dog。
今回は、1月26日発売の『ノンフィクション』のコード進行を見ていき、作曲の意図を考えていきましょう。

ここからの内容は、er-music編集部の独自の見解になります。 読者様との解釈に相違がある場合も、考え方の一例、また娯楽の一環としてご覧ください。 また、ダイアトニックコードの理解があるとより楽しめるかと思います。 >>ダイアトニックコードについて

全体を通して

イントロがなく、のっけから勢いがあってバンドマンらしさを感じる楽曲です。

BPM216にエイトビートがかさなり、主人公が走っているような情景が浮かびます。
Bメロやサビ後半では、ビートが落ち着き、主人公も立ち止まっているようにも感じます。

リズムに緩急をつけることで、コードやメロディー歌詞以前の、土台となる表現が完成しています。

リズムセクションのシンプルで勢いがあるアレンジングが、なんとも「バンドらしいカッコよさだな」と感じました。

コード進行の特徴

Gメジャーのスケールをなぞるように、順番に上がっていく進行や、下がっていく進行が頻繁に現れます。
例えば、『G→Am→Bm』のような進行です。
ここからは、高揚感や落ち着きの表現に一役かっているように感じました。

さらに、ところどころ「Gマイナーキーのコードを借りる」という方法をとっています。
マイナーキーの暗い雰囲気を適度に取り込み、浮き沈みやもの悲しさを表現しているのかもしれません。

えるるん
ギタリストが弾きやすいコードで構成されているので、考えたというより感覚的に作っているのかも。
もしそうであれば、類まれなるセンスと経験値が光る楽曲だね!

Aメロ(ノンフィクション)

Aメロの楽譜

2小節目【B7】

Gメジャーキーでの『B7(Ⅲ7)』は、『Em(Ⅵm)』を一時的なトニックとみたて、ドミナントコードに変化させたものと考えることができます。(こういったコードをセカンダリードミナントといいます。)

そのため、B7がなるとEmの暗い雰囲気が強まります。
実際には、Emへと進行しないので、程よくマイナーのエッセンスが加わったイメージです。

7小節目【B♭M7】

『B♭M7』は、Gマイナーキーから借用してきたコードと考えることができます。
下図はGマイナーキーのダイアトニックコードです。

Gmダイアトニックコード

B♭M7が入ることで、『Bm7→B♭M7→Am』とベースが半音で下行する進行となります。
コード進行はスムーズになり、B♭M7のノンダイアトニックな雰囲気がアクセントとなっています

この部分の解釈
コード進行に感じる一瞬の違和感から、「素直なラブソングであったり」「誠実な応援ソング」でないことはイメージが付きます。
主人公の期の迷いだったり、不安だあったり、何か単純ではない心情を感じます。
B♭M7が入らないと、もっとストレートに聞こえるでしょう。

Bメロ(ノンフィクション)

Bメロの楽譜

1小節目【E♭】

このコードも、Gマイナーキーから借用してきたコードです。

このあとBメロ15小節目で、サブドミナントマイナーという言葉が出てきますが、E♭もサブドミナントマイナーの代わりとして機能しています。

11小節目【C#m7-5】

『C#m7-5』は様々な解釈ができるコードですが、この後コードが駆け上がってDへと向かうことから、A7の代理として使われているコードと考えることができます。
A7は、ドミナントであるDに対するセカンダリードミナントです。

それぞれの構成音を見てみると、響きが近しコードであることがわかります。

コード構成音
A7A,C#E,G
C#m7-5C#,E,G,B

ほかにも、次にDM7が来ることを想定した経過音的なコード。Gリディアンモードモーダルインターチェンジといった考え方もありますが、サビ前ということもあり、Dを想定したセカンダリードミナント的に使っていると考えました。

この部分の考察
セカンダリードミナント的力により、この先Dへと進むことがイメージできます。
そこに、AmからDへ上昇していくコード進行を挟むことで、サビへの期待感が高まります。

15小節目【Cm】

『Cm』は、サブドミナントマイナーと呼ばれるコードです。
その名の通り、サブドミナントという役割がある『C』がマイナーコードになった形です。

Bメロ1小節目で登場した『E♭』は、Cmと構成音が近しく、サブドミナントマイナーの特徴となる音を含むので、同じサブドミナントマイナーと考えることができます。

⇒サブドミナントマイナーについて詳しくはこちら

この部分の解釈
このコードも実は、Gマイナーキーからの借用コードです。
メジャーキーの中でサブドミナントマイナーが来ると、暗くすぎず哀愁がある響きがします。
感動的な演出もできるコードですが、強調されると悲しい雰囲気が増しすぎてしまいます。
この曲では、あえてさりげない使い方をしており、程よい哀愁を感じさせています。

サビ(ノンフィクション)

サビの楽譜

サビの楽譜1

1~4小節目【G→Am→Bm7→B7】

Gから、A→Bと上昇していく進行です。

4小節目『B7』は、Emに対するセカンダリードミナントで、次のEmへの進行をスムーズにしています。

この部分の解釈
1~3小節のコードは上行の進行ですが、メロディー(「ツギハギだらけの」の部分)は下行していくものとなっています。
コードは上行の『明るく力強い』ものに対し、メロディーは下行していく『落ち着いたもの』と相反していることがわかります。
次の4小節目『B7』では、メロディー(『ぬけがらなの』の部分)が上行していくものとなっています。
最初3小節には、その後を期待させる『溜め』の役割があるように感じます。
メロディーもコードも下がっていくと、落ち着きすぎてしまいますが、この進行からは「なにか次がある」ような印象を覚えました。
そして、印象的なノンダイアトニックコード(セカンダリードミナントであるB7)の部分で、メロディーも駆け上がっていく。さらなる迫力と感動が生まれているように思えます。
えるるん
ちなみにこの進行は、『SaucyDogのシンデレラボーイ』や『aikoのカブトムシ』でも使われている進行だよ!

6小節目【A/C#】

『A/C#』は、一般的に、Dに対するセカンダリードミナントと解釈されます。
このコードは、さらにベース音をC#に変えた第一転回系の形をとっています。

転回系(分数コード(オンコード)についてはこちらをご覧ください。

実際にはDへと進みませんが、C#をルートとすることで次の『Cadd9』への動きをスムーズにしています。

8小節目【E♭】

Bメロでも出てきたコードで、Gマイナーキーから借用してきたものです。
サブドミナントマイナーと考えることができます。

サビ2(ノンフィクション)

サビの楽譜2

1~4小節目【Bm7→Cadd9】

これまで1小節に1コードの間隔でコードチェンジがされていましたが、ここでは2小節1コードとなっています。
サビの勢い、盛り上がりを抑える役割のように感じます。

えるるん
ここまで走っていたのに、立ち止まったか、ペースを落としたように感じるね。
この部分の解釈
コードの役割まで話を広げると、Bm7はⅢm7、Cadd9はⅣというコードです。
この曲の中では、G(Ⅰ)かEm(Ⅵm)が、落ち着くコードなので、あまり落ち着いた感じがしないセクションであるといえます。
これが、前半8小節間ずっと続きます。
サビの勢いと安定感、力強さを壊すもので、ストーリーが大きく展開している様子が感じられます。
こうした、Ⅲm7やⅣといった表現方法については、『ダイアトニックコードとは』をご覧ください。

7小節目【Cm】

『Cm』は、サビ前にも出現したサブドミナントマイナーと呼ばれるコートです。
サビ前と違って、ここではCmの尺を大きくとっています。

この部分の解釈
サブドミナントマイナーのもつ、薄暗く哀愁のある響きが際立ち、はかない雰囲気に包まれます。

9~12小節目【Em→D→Cadd9】

キーはGですが、この部分だけ切り取れば、並行短調であるEmキーとして雰囲気が強まる進行となっています。
この曲で言えば、Emから下行していくコード進行は、暗く重たく聴こえます。

15小節目【F】

『F』も、Gメジャーキーのダイアトニックコードには存在しません。
実はこのコードも、Gマイナーキーから借用してきた♭Ⅶというコードです。

この部分の解釈
ノンダイアトニックコードかつ、これまで一度も出てきていないコードなので、聴者が「ハッ」とするポイントとなっています。
Emキーの雰囲気の強まりで暗くなっていた曲調に、大きな変化与える役割に感じます。
実際、ここが起点となり明るいAメロへと進行していきます。
Gmキーでの『F(♭Ⅶ)』は、強くはないですがG方面に進む力もあるので、スムーズにAメロ一発目のGに進んでいきます。

まとめ

バンドらしい疾走感と力強さに、キャッチーなメロディーが相まった、かっこよく爽快な一曲でした。
マイナーキーからコードを借りてくる技法は、ジャンル問わず頻繁に使われています。
この楽曲をいい例として、作曲の参考に取り入れられるといいですね。

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