椎名林檎のアルバム『平成風俗』に収録の『錯乱』。
コード進行などから魅力を紐解いていきましょう。
全体を通して
アップテンポなスウィングビートから、軽やかな疾走感を感じます。
コード進行は4度進行がメインで、これもまた軽やかに進んでいきます。
Gmキーの暗い雰囲気に、椎名林檎の色気ある歌唱が妖艶な雰囲気に包まれます。
根幹には、およそスウィングジャズを感じられます。ジャズの有名曲SING SING SINGのような、ビッグバンドの豪快さが楽しめます。
※このサイトでは、コードディグリーの表記を、メジャーキーの場合の『I』起点で統一しています。
Gマイナキーですが、B♭がI、GmがVImとなります。
イントロ
イントロは3パートに切り分けて見ていきます。
イントロ1
2小節の分の強烈なドラムフィルインで始まります。
コード進行は、ノンダイアトニックな響きが目立つ、そわそわと緊張感のあるもの。
反対にベースはGを意識し続けているため、どっしりとしていますが、先に進まない様子に溜め感、焦らしを感じます。
A7/G
『A7』は、次に進むDを一時的なトニックと見立てた際のドミナントコードにあたります。
こうした、ドミナントコードをセカンダリードミナントと言います。
またD7は、Gマイナーキーの通常のドミナントですので、A7は「ドミナントに対するドミナント」とも言えます。
セカンダリードミナントの仲間ですが、特別にダブルドミナント(ドッペルドミナント)と呼ばれたりします。
D7/G
『D7』はGマイナーキーのドミナントです。
緊張感が強く、Gmへ進みたくなる力を持っています。
イントロ2
優雅な旋律。洗練された響きで、現代のミュージカル映画にもある様な壮大さとドラマチックさを感じます。
IIm7から4度進行を続けるコード進行です。
4度進行は、スムーズでジャズらしい雰囲気のあるコード進行です。
例えば、ジャズスタンダードの『Autumn Leaves』もIIm7から4度進行でVImへと解決する同じような進行をとっています。
もっとも、イントロ2ではVImへ解決仕せず『D7sus4→D7』で終わっています。
こうした、曲の一区切りがドミナントで終わるものを半終止と言います。
緊張感ある状態で区切られるため、「続きがあるであろうこと」を感じさせますが、曲の序盤であるめ、「これから始まるぞ!」と言った期待感の方が強い様に感じます。
イントロ3(ボーカルあり)
イントロ2とは違い、椎名林檎のボーカルが乗っかるパートです。
Gm9
曲調はより静かに、『Gm9』などのテンションコードの不安定感が、複雑な奥行きを作り、大人な雰囲気を感じさせています。
E♭M7→D7(13)
イントロ2では、『Am7-5』としていたコードが、イントロ3では『E♭M7』となり、E♭の5度(B♭音)をキープした、『D7(♭13)』を使っています。
Aメロ
1〜2小節目【Am7-5→D7】
イントロ2,3は『Cm7(IIm7)』から始まっていたのに対し、『Am7-5(VIIm7-5)』から始まっています。
『Am7-5』は、Cm7と同じサブドミナントの役割を担いますが、濁りが強く、ダークさが増した印象です。
3〜4小節目【Gm9→C7(♭13)】
『Gm9』の9th(A音)と、『C7(♭13)』の♭13th(A音)が共通しているため、より滑らかにコードが進行しています。
『C7(♭13)』は、Gドリアンモードからのモーダルインターチェンジコードです。
Gマイナーキーの中では、明るくも地に足つかない浮遊感を感じます。
- チェック:モーダルインターチェンジとは
- モーダルインターチェンジは、長調(メジャーキー)の楽曲の中に、同主短調(マイナーキー)など、別の場所からメロディーやコードを借りてくるような手法です。 厳密に言うと、長調・短調の考え方とは異なる「モード」という概念を使います。「Aメロはハ長調(Cメジャーキー)、Bメロはハ短調(Cマイナーキー)」など、異なる調性を感じさせてしまう場合は転調といいます。 ▷モーダルインターチェンジについて詳しくはこちら
Bメロ
1〜4小節目【E♭M7→F7→Gm7】
これまでの、暗く濁った雰囲気から解放されて、安らぎを感じるセクションです。
『E♭M7→F7』の進行は、B♭M7をトニックとみた際、IV(サブドミナント)→V(ドミナント)の動きをとっています。
これは、B♭M7への進行を予感させる明るい進行です。
7~8小節目【Dm7→D7】
Gマイナーキーの『D』はドミナントに当たります。
ここでは、緊張感の少ない『Dm7』から、緊張感の強いドミナントセブンス『D7』に変化させています。
コードの突然の変化に驚きと、3度の音が半音つりあがったことで更なる緊張感が生まれます。
メロディーも『Dm7』と『D7』の3度の音を追っているため、この変化は誰しもが感じやすいでしょう。
この部分の解釈
ジャズテイストではあるものの、こうした明確なサビへの前振りは、よりポピュラーミュージックな要素を感じさせます。
英語歌詞を理解できなくも雰囲気で、ストーリ、情景の移り変わりがイメージできます。
サビ
Bメロと比較して、シンコペーションが加わり、メロディーが短い音符になるため、疾走感を感じるセクションです。
1~2小節目【Cm7→D7】
Aメロは、冒頭に『Am7-5』をつかっていました。
Cm7とAm7-5は役割が近しいですが、Am7-5の方が安定感がなく迫力に欠けます。
力強く歌い上げるサビでは、Dm7を。と使い分けているんだね。
5~6小節目【Am7-5→D7】
『Am7-5→D7』は、Aメロの5〜6小節目と同じ進行です。
サビでは、最も緊張感のあるD7コードの上で、メロディーが最高音(D♭音)をつけています。
D♭は、トニックGから見た♭5の音で、ブルーノートと呼ばれます。
ブルーノートのブルージーさと、E音まで到達しない力足らずな様に、弱さ、儚さを感じる部分です。
まとめ
錯乱のワンコーラスを見てきましたが、疾走感あるスウィングジャズさ、楽器の厚みが魅力的な楽曲でした。
コード進行は、意外にも複雑なものはすくなく、ノンダイアトニックコードもあまり出てきませんでした。
ただ、似た様な進行でも、それぞれ若干の相違点があったりと、雰囲気や強弱に応じて使い分けられいてる部分が見られました。
シンプルなダイアトニックコード中心の進行だからこそ、ジャズ感が強くても聞きやすく、JPOPを好む方にも何度も聞かれる一曲となっているのでしょう。
この部分の解釈
メロディーはAメロに比べて、長い音符ばかり使われています。
手前のセクションに比べて、長い音符のメロディーになると、速度がゆったりとした様に感じます。
コードの明るさと合わさり、穏やかで安らぎを感じる、心地よい雰囲気に包まれます。