重々しく狂気じみた雰囲気じました。
今回は『Vinyl』の魅力をコード進行を中心に解説していきます。
イントロ
サイレンが鳴り響き、映画が始まるような緊張感。
それを背景に、1~4小節目はハネたドラムのビートとフォールするベース、スクラッチの音が入ってきます。
5~6小節目【Fm→B♭m→E♭→A♭7】
ワウがかかった印象的なギターのリフと、それにユニゾンするような形でグロッケンの音が入ってきます。
この5~6小節目では、すべてルートの動きが完全4度上行(完全5度下行)になっています。
こういったベースラインは推進力が強く、自然な流れを与える為、強進行と呼ばれます。
6小節目のA♭7は、7小節目のD♭に向かうセカンダリードミナントです。
A♭が7thコードになることによって、構成音の中でM3rdとm7thのトライトーンの関係が生まれ、
D♭に進行することでそれが解消されるため強い進行感が生まれます。
これをドミナントモーションと呼びます。
7~9小節目【D♭→B→Gm7♭5→A♭7→Adim→B♭m7→Bdim→Cm7→Fm】
8小節目のAdimは、A♭7とB♭m7のルートを半音でつなぐパッシングディミニッシュです。
続くBdimも、B♭m7とCm7のルートを半音でつなぐパッシングディミニッシュといえます。
Gm7♭5から通して見てみると、Cm7に向かって半音ずつクロマチックに上昇する非常に滑らかなベースラインになっています。
Aメロ
ボーカルの歌い出しからドラムが消え、ギターのみがバッキングしています。
そして2小節目の4拍目からスネアが入り、アンサンブルが戻ってきます。
こうしたブレイクは、聴き手をボーカルの歌声にグッと集中させ、楽曲に引き込ませる作用があります。
この手法はまったく同じような形で、藤井風さんの『旅路』の2番Aメロでも使われています。
また他にも、Adoさんの『ギラギラ』やケツメイシの『夏の思い出』など、あらゆる楽曲で似た手法を聴くことができます。
1~2小節目【Fm→B♭7→E♭→A♭7】
基本的にイントロとほぼ同じ進行になっていますが、ここではB♭m7だった部分がB♭7になっています。
B♭7はFmのメロディックマイナースケールから作られるダイアトニックコードで、
B♭7→E♭の動きがドミナントモーションになっています。
ここで、Fmキーのナチュラルマイナースケールから作られる「B♭m7」からE♭に進行するパターンと、
Fmキーのメロディックマイナースケールから作られる「B♭7」からE♭に進行するパターンを聴き比べてみましょう。
▼B♭m7→E♭
▼B♭7→E♭
B♭m7→E♭も強進行になっている為、十分に推進力のあるコード進行です。
しかし両者を比較すると、B♭7→E♭の方に圧倒的な進行感を感じられる方が多いかと思います。
これがドミナントモーションの力です。
メロディの特徴
Aメロは全体的にイントロをモチーフとしたメロディになっています。
3~4小節目と8~9小節目は、コード進行のルートをなぞるように半音ずつ上昇するメロディが特徴的。
Bメロ
チープなシンセ音とノイズがかったボーカル、コーラスがダークな雰囲気です。
この時点で、B♭mキーに転調していると考えられます。
1~2小節目【F7→G♭7→F7→Gdim7→Adim7】
1小節目は、7thコードが連続する緊張感のある進行。
F7は、B♭mキーのハーモニックマイナー(あるいはメロディックマイナー)スケール上で作られるダイアトニックコード。
G♭7は、B♭mキーのメロディックマイナースケール上に作られるダイアトニックコードです。
2小節目は、サビ頭のB♭m7に向けて、キメと共にF7→Gdim7→Adim7と進みます。
Gdim7は、E♭7(♭9)のルートを省略した形です。
同様にAdim7も、F7(♭9)の省略形であると解釈できます。
また、Adim7はB♭mキーのハーモニックマイナースケール上で作られるⅦdim7と言うこともできます。
サビ頭のB♭m7に半音下から滑らかに進行する為の、導音の役割を果たしています。
メロディーの特徴
1小節目頭、F7の「さよなら」の「ら」で13thの音を長めに歌っており、
続く半音上のG♭7でも、「愛を込めて」の「愛」で13thの音を歌っているのが特徴。
13thによって一瞬優しい響きを感じ取ることができますが、それ故に狂気のようなものも演出されていると感じます。
サビ
サビは今までと同様に、強進行やドミナントモーションが連続する、推進力の強いコード進行になっています。
1~4小節目【B♭m7→E♭m7→A♭7→D♭→G♭7→Cm7♭5→F7→Gdim7→Adim7】
3小節2拍目は、Cm7♭5→F7とツーファイブの動きになっているのでそのままトニックのB♭mに解決してもよいところですが、
ここではすぐに解決せずに、サビ前と同様のキメとコード進行(F7→Gdim7→Adim7)が入ってきます。
5~9小節目【B♭m7→E♭m7→A♭7→D♭→G♭→Cm7♭5→F7→G♭7→B7→C7】
8小節目のG♭7は、B7に向かうセカンダリードミナント。
Bメロにも登場したG♭7ですが、ここではG♭7→B7とルートが強進行になっています。
B7は、F7の代理ドミナントとなる裏コード。
裏コードはドミナント7thの代理コードとして使われるもので、半音下のトニックへ解決することが多いのですが、
ここでは半音上にそのまま平行移動する形でC7へ進行しています。
C7は、F7へと向かうセカンダリードミナントコードのため、ダブルドミナントです。
また、このC7は転調前のFmキーにおけるⅤ7であり、これをきっかけに間奏頭のFmへと解決し、B♭mキーからFmキーへと滑らかに戻っていきます。
こうしたセカンダリードミナントを用いた転調は、ポップスにおいてもよく使われる手法です。