【高嶺の花子さん/back number】コード進行と分析

パソコンで「たかねのはな」と入力しましたら、予測変換で「高嶺の花子さん」が出てきました。
それほどの超ヒットソングは、どのように構築されているのでしょうか。

コード進行を軸に紐解いていきましょう。

ここからの内容は、er-music編集部の独自の見解になります。 読者様との解釈に相違がある場合も、考え方の一例、また娯楽の一環としてご覧ください。 また、ダイアトニックコードの理解があるとより楽しめるかと思います。 >>ダイアトニックコードについて

全体を通して

サビでは、4つ打ちのビートとダウンストロークの力強いギターバッキングが相まって疾走感あるサウンドとなっています。
鼓動よりも早いBPM138のテンポもあり、『走っているような』速度感を感じます。

またサビですが、コード進行は一見王道進行をイメージさせますが、アレンジが加わった充実の進行で、そこにストリングスが加わりドラマチックな展開を感じることができます。

さらに、曲全体を通して、『F#』というノンダイアトニックコードが登場します。
一瞬転調したかのような緊張感も感じることができます。(詳しくは場合事に解説していきます。)

イントロ1(高嶺の花子さん)

楽譜イントロ1

1~2小節目【DM7 – E | C#m7 – F#m7】

『DM7 – E | C#m7 – F#m7』のコード進行は、王道進行と呼ばれるコード進行です。
ディグリー表記で『Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm』という進行になります。

⇒ディグリー表記については『ダイアトニックコードの記事』をご覧ください。

この部分の解釈
王道進行は、明るい雰囲気と暗い雰囲気が混在するコード進行です。
悪く言えばどっちつかずな進行ですが、その曖昧な感じが切なさを感じさせます。
例えば、古内東子の『サヨナラアイシテタヒト』という楽曲。ご存じの方はもちろん、そうでない方も曲名から切なさあふれる一曲であることがわかります。
この曲のサビでも王道進行が使われています。
高嶺の花子さんでも、サビでまた王道進行が見られます。
また、言い換えればずっと『落ち着き』や大きな『安定』がない進行であるために、疾走感を表現しやしくもなります。

3~4小節目【Bm – E | C#m7 – F#】

このコード進行は、先ほどの王道進行『DM7 – E | C#m7 – F#m7』を変化させた形です。

3小節目『Bm – E』とありますが、Bmは、DM7と近しい構成音を持つコードで、同じサブドミナントという役割があるコードです。
そのため、「DM7の代わりに、Bmを使う」ことができます。

4小節目『C#m7 – F#』とありますが、『F#』は通常F#mであるコードがメジャーコードに変わったものです。
この部分だけF#メジャーキーに転調している(または、モーダルインターチェンジによる借用)と考えることもできます。

この部分の解釈
トニックであるマイナーコード(ここでいうF#m)の3度の音を半音持ち上げると、メジャーキーに変わります。
マイナーキーの終止で使われるこうしたアレンジを(ここでいうF#)を、ピカルディの3度(ピカルディ終止)と呼びます。
王道進行の切なさの中でピカルディ終止とすることで、まだ希望があるような明るい雰囲気を演出することができます。

8小節目【F#sus4】

前半の4小節を単純に繰り返す進行と思いきや、最後のコードだけ若干変わったコードなっています。

『F#sus4』は、F#mの短3度の音が全音上がったコードです。
コードの明暗を決定づける3度の音がないため、メジャーコードなのかマイナーコードなのかはっきりしません。

コード構成音
F#mF#,A,C#
F#F#,A#,C#
F#sus4F#,B,C#
えるるん
浮遊感のあるコードで、次にどんな展開が来るのか予想できないよね。
そこに次のセクションへの期待が生まれる!

イントロ2(高嶺の花子さん)

楽譜イントロ2

1小節目【F#m】

イントロでは、王道進行やピカルディ―終止があったりと、暗さを感じにくい進行をしていました。
イントロ2では、冒頭から『F#m』で始まり、マイナーキーの雰囲気が色濃くなっています。

ただ後述のコード進行、Aメロのコード進行も加味すれば、同じ音を使うキーですが『F#マイナーキー』より『Aメジャーキー』のほうが適切でしょう。

5~8小節目【A | B | C#sus4 |E 】

5~7小節は『A ⇒ B ⇒ C#sus4』とルートがスケールにのっとって順次上行する進行です。
こみあがる期待感があります。

6小節目の『B』は、のちのEを一時的なトニックとみたててドミナントコード化したもので、セカンダリードミナントと言います。

7小節目『C#sus4』は、前にもでたF#sus4のようにメジャーかマイナーかわからないコードです。
もしメジャーだとすれば、F#mに対するセカンダリードミナントとなるため、ここでは「もしかしてF#mに進むのでは」と無意識的に予感しやすくなります。

結果的には、『E』へと進みます。
EはキーAのドミナントコードですので、『B→E』の動きは次に『A』が来ることを予感させます。

えるるん
次のセクションから明るくなることがイメージできるね。

Aメロ(高嶺の花子さん)

楽譜A

1~4小節目【DM7  | DM7 | A | A 】

『DM7→A』の動きから、Aメジャーキーの雰囲気が色濃くなりました。
サブドミナントと呼ばれる『DM7』から『A(トニック)』への進行は、次の4小節にくらべて大きな解決感はありません。

そのため、次の4小節のほうがより明るさ、落ち着きを感じやすくできています。

5~8小節目【Bm | E | A | A】

イントロ1でも出てきましたが、『Bm』はDM7の代わりとして使われているコードです。これを代理コードと言います。

『D/E』は、上のコードがDとなっていますが、言い換えれば『E7sus4』と表現できます。
普通の『E』と同様にドミナントコードですので、次のAへとスムーズに解決します。

E→Aの動きはドミナントモーションと言われ、大きな解決感・落ち着きを生み出します。

えるるん
ここで一旦落ち着いて、次また8小節を繰り返す形だね!

Bメロ(高嶺の花子さん)

楽譜Bメロ

1~2小節目【Bm | F#m】

『Bm→F#m』の動きは、暗い雰囲気を感じさせます。
先ほどのAメロの明るさから一転し暗い進行となり、ストーリーが前に進んだ、展開していった印象を感じます。

7~10小節目【DM7 | E | A | C# 】

『DM7 →E →A』は理想的な明るい進行ですが、それを打ち破るのが10小節目『C#』です。

『C#』は、F#mに対するセカンダリードミナントです。
この一瞬はF#mが中心のサウンドとなるので、先ほどの明るい進行を打ち破る「暗さ」「驚き」を感じます。

この部分の解釈
E→Aと進行する部分の歌詞は下のようなものです。(太字はC#の部分)
1番「おはようと笑う君を」2番「いや待てよ そいつ誰だ」3番「落ちばかり浮かんできて」といった内容。
2番は顕著ですが、ストーリーが大きく動くような特徴的な歌詞となっています。
メロディーも強調してしゃべるように、一音一音に重きを置いた8分音符で構成されています。
C#時の『だだ』の音は、『ド#→シ#→ド#』となっており、シ#というノンダイアトニックスケール音が使われ緊張感が走ります。
サビ前のメロディー譜
サビへとつながる重要なポイントで、聴者を引き付ける役割の強調ポイントであることがわかります。

サビ(高嶺の花子さん)

楽譜サビ

1~4小節目【CM7 | E | C#m7 | F#7】

イントロでも出てきた王道進行がここでも使われています。

4小節目の『F#7』は、イントロでも出てきたピカルディ―終止に似ていますが、ここではあえて『F#7』というセブンスコードの形をとっています。
そのため、このコードは次のBmに対するセカンダリードミナントです。

この部分の解釈
ドミナントコードとなるために、使いやすいメロディーの幅も変わります。
「飛び出してきてくれないか」には、F#から見た♭9という音が使われ特徴的なメロディーとなっています。
「VIをセカンダリードミナントとし、特徴的なメロディー」といったアプローチをよく使うアーティストに、『 Janne Da Arc(ジャンヌダルク)』『Acid Black Cherry』が思いつきます。
ジャズ的なアプローチともいえるおしゃれなコードとメロディーが入ることで、『色気』を感じます。

16小節目【C#】

『C#』は、Bメロの最後にも使われたセカンダリードミナントです。

この部分の解釈
緊張感があり聴者が驚きを感じる『C#』でサビでサビに入り、『C#』でサビが終わるようにできています。
これまでのイントロ・Aメロ・Bメロと、サビが明確に違うセクションであるとしているのかもしれません。
サビの最後は「偶然と夏の魔法とやらの力で僕のものに なるわけないか」という歌詞で終わります。
最後の「なるわけないか」の一言で、ここまでが自分の妄想どまりの話をしていたことがわかります。
サビ前のC#(「おはようと笑う君を」)~サビ終わりのC#(「なるわけないか」)までが、片思いの妄想に心はせている主人公の描写ということがわかります。
意図的にサビだけを『演奏面』と『ストーリー面』で、他のセクションと区別していると考えると、脚本家といえるほどの秀でた構成力を感じます。

間奏(高嶺の花子さん)

楽譜間奏

イントロを同じ進行をしていますが、イントロではストリングスが奏でていたフレーズを、ギターが担当しています。

この印象的なフレーズは、ペンタトニックスケールのみで構成されています。
ロックやポップスにも幅広く使われるスケールで、使い方次第では日本的な和の雰囲気を表現することができます。

わかりやすい例としては、初音ミクの『千本桜』がいいでしょう。
イントロのフレーズや、メロディーはペンタトニックスケールを基本として作られています。
楽使われている楽器の関係もありますが、なんとも和のテイストをかんじる一曲です。

まとめ

全体的にみると、片思いの切なさを感じる一曲でした。
音楽理論的な観点で見ると、セカンダリードミナントやピカルディ―終止といったワードが出てきました。

ただこの曲に関しては、こうした音楽的なアプローチよりも、それらを巧に配置する構成力が素晴らしいと感じました。
映画のような展開・ストーリーを構築するため、コード進行や楽器、メロディーや歌詞をセンスでまとめ上げているイメージです。

あくまでも個人的な解釈になりますが。

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