BPMもちょうど歩いている程度で、心地よく穏やかな楽曲です。
ギターのバッキングは力強くも、少し切ない印象、またエモーショナルさを感じる一曲です。
この楽曲の世界観、また「良さ」はどういった作り方で生まれているのでしょうか。
コード進行の観点を主軸に考えていきましょう。
イントロ
1~2小節目【D→DM7→D7→B7】
『D→DM7→D7』の進行は、Dの構成音のD音を半音づつ下げていくことで生まれます。
こうしたコード構成音の一つを半音や全音づつ変化させる進行をクリシェと言います。
コード | 構成音 |
---|---|
D | D,F#,A,(D) |
DM7 | D,F#,A,C# |
D7 | D,F#,A,C |
『B7』は3小節目のEmに対するセカンダリードミナントと解釈できます。
先ほどのクリシェ進行で、D音が半音づつ下がっていき、B7のルートであるBまで半音階で到達しています。
そのためスムーズに進行しています。
- チェック:セカンダリードミナントとは?
- セカンダリードミナントは、ダイアトニックコード一番目のコードであるトニック(『I』あるいは『Im』)以外のダイアトニックコードを一時的なトニックと見立てて、その5度上のコードをドミナントコードに変化させたものです。
▷セカンダリードミナントについて詳しくはこちら
3〜4小節目【Em→Em/E♭→Em/D】
『Em→Em/E♭→Em/D』も、1小節目のクリシェとほとんど同じことをしており、Emの構成音のE音を半音づつ下げています。
ただしここでは、ベース音のE音を変化させて、トップノートのE音は固定しています。
この様に、ベースラインだけ半音・全音で下げてコードを変化させる進行をベースラインクリシェと言ったりします。
コード | 構成音 |
---|---|
Em | E,G,B,(E) |
Em/E♭ | E♭,G,B,E |
Em/D | D,G,B,E |
マイナーコードのクリシェなので、Dコードのクリシェよりも、暗く切ない雰囲気があります。
9小節目【D】
ここまでクリシェ進行で、なんだかもやもやと切ない雰囲気が漂っていましたが、最後に余分な1小節でトニックのDコードを鳴らすことで、リセットされたような晴れやかな印象となりました。
Aメロ
2小節目【F#7】
『F#7』は3小節目のBmを一時的なトニックと見立てたセカンダリードミナントです。
トニックの機能を持つBmが強調され、一時的な暗さが漂います。
4小節目【Am7→D】
『Am7→D』では、5小節目のGを一時的なトニックと見立ててツーファイブモーションをとっています。
そのため、Dはセカンダリードミナントに当たります。
また、セカンダリードミナント(仮のV)に対するIImのコード(ここでいうAm7)をリレイテッドIImと言います。
Dは、Gがトニックの場合の『I』
だね!
Bメロ
1~2小節目【Em→A→D→Bm】
ここまで『D(I)』から始まり『D』で終わる進行だったため、広い目で見れば安定的で、また明るさを感じる進行でした。
Bメロ冒頭は、『Em(IIm)』から始まるため、これまでの安定感がいい意味で打破され、ストーリーが動き出した様な印象を感じます。
3〜4小節目【Em→F#7→Bm→D】
1小節と3小節のメロディーが似ていることからも、2小節単位のフレーズであることが分かります。
ただし、1〜2小節目とはコード進行が若干異なり、不安感を煽る進行とななっています。
大きな変化としてはセカンダリードミナントである『F#7』が使われている点です。
Em→F#7→Bmの進行は、Dメジャーキーの中で非常に暗く響き、不安さを感じます。
8〜9小節目【Asus4→A→G/B→A/C#】
『A→G/B→A/C#』はイントロの4・8小節目でも出てきました。
ベースを見ても分かる通り、Aから、サビ1小節目のDに向けて上がっていく進行です。
Asus4を含めて、ここで表現したいのは『Aコード』です。
Aを変化させ、Dに向けて上行でアプローチしていき、高揚感・期待感が演出されています。
この部分の解釈
Asus4は、ドミナントの手前に挟むことで『溜め』を作り、ドミナントのもつ緊張感を高めることができます。
『G/B』はAsus4に近い構成のため、ここではsus4的に機能します。
なので、この一連のコードを簡潔にすると『Asus4→A→Asus4→A』という進行と言えます。
もっと端的に言えば『A→A→A→A』。きっとこれが原型で、サビへの期待感を高めるアプローチとして、こうしたコード進行に変化していったのだとも考えられますね。
早くサビに行きたくなるよね。これがなんとも期待感を生んでる!
サビ
ほとんどAメロに近い進行です。
ただ、Aメロはバッキングギターを極力抑ええたセクションでした。
サビでは、もっと迫力があって、Aメロに感じる切なさを跳ね除ける様な力強さを感じます。
5小節目【GM7】
Aメロでは『G』としていましたが、『GM7』とされています。
1〜4小節の力強さを鎮めるような、優しい響きとなっています。
メロディーもGからみたM7(F#音)を使っていて、エモーショナルな雰囲気があります。
7小節目【E7】
『E7』は8小節目のAを一時的なトニックとした時のセカンダリードミナントです。
また、AはDメジャーキーの純粋なドミナントなので、E7は「ドミナントに対するドミナント(ダブルドミナント)」と言えます。
ドミナントAはトニックDに進もうとするため、コード進行の上で明るく響きます。
E7はそれに対するドミナントなので、こちらもまた明るく響きます。
まとめ
今回は、花束のワンコーラスのコード進行を見てきました。
この曲には間奏やCメロと、語るべき箇所がまだまだありますが、ワンコーラスで大枠は掴めたかと思います。
この曲には、不安・不安定な感情を感じさせるセクションがあり、それを吹っ切る様に力強いセクションまで存在します。
恋に悩み、恋に謳歌する様子がこのワンコーラスからも見て取れました。
この先の間奏・Cメロは、不安感が最高潮に高まるセクションですが、サビへと行き着くため結果的に希望的なハッピーエンドとなっています。
この部分の解釈
規則性のある進行のため違和感は感じませんが、足元がおぼつかないような不安定さを感じます。
恋に悩む主人公の心の安定さを表現している様にも思えました。