今回はそんな世界的にも評価された楽曲『死ぬのがいいわ』を分析していきます。
この楽曲は、優しい雰囲気を感じさせるメジャーキーのAパート(verse)と、切なく悲しげな雰囲気を感じさせるマイナーキーのBパート(chorus)が交互に入れ替わる構成となっています。
一般的なJ-popのようにAメロ・Bメロ・サビ・Cメロのような構成とは違い、
この楽曲はverseとchorus、この2つのパートに分かれているというところが洋楽的で、世界的に聴かれている要素のひとつだと言えるかもしれません。
歌詞とコード進行とがリンクしており、巧みに恋心を表現した楽曲と言えます。
イントロ
ピアノによる和を感じさせる旋律と、優しい歌声
1~4小節目【FM7(9)→G♯m7(♭13)→F♯m7(9)→D7(9)】
4小節目のD7(9)は、同主短調からモーダルインターチェンジによって借用してきたコードです。
メロディの特徴
1~2小節目では、ファ♯・ソ♯・ファ♯・ミ・ファ♯・ミ・ド♯という、どこか和を感じさせる特徴的なメロディーをEM7(9)とGm7(♭13)の上で繰り返しています。
日本の民謡の特徴として、第四音と第七音を用いず(ヨナ抜き長音階)、第二音や第六音ではじまり、また第二音や第六音で終わる、というメロディが多く使われます。
このイントロのメロディーは、Eメジャーから見て第二音(ファ♯)からはじまり、第四音と第七音は用いず、第六音(ド♯)で着地している為、
和の雰囲気を感じさせるメロディーになっていると感じます。
Aメロ
トラップビートのリズムが入ってくると同時に歌が始まります。
歯切れのいいピアノのバッキングがノリを生み出しています。
メロディーの特徴
イントロをモチーフとしたメロディーが特徴。
Bメロ
最初の4小節はトラップビートから打って変わって、ローファイなエフェクトのかかったクラップ音に切り替わり全体を落ち着かせています。
転調しているのに加えてリズムが変化することで、ガラッと雰囲気を変えるのに一役買っています。
1~3小節目【Em7(9)→Am7→FM7(9)】
この時点で、Eメジャーキーから同主短調のEマイナーキーへ転調していると解釈できます。
Bメロ直前のD7(9)は、Eマイナーキーのナチュラルマイナースケールから作られるダイアトニックコードである為、滑らかな転調となっています。
3小節目のFM7(9)は、サブドミナントマイナーコードのF♯m7(♭5)のルートのみが半音下がったコードです。
Eマイナーキーの平行調であるGメジャーキーから見たミクソリディアンモードから、モーダルインターチェンジによって借用した♭ⅦM7コードであると考えることができます。
4小節目【F♯m7(♭5)/B→B7】
F♯m7♭5(♭9)/Bは、書き方を変えればB7sus4(♭9,♭13)になります。
7sus4コードによって吊り上げられた4thと、オルタードテンションの♭9,♭13が半音下に下がり、B7へと進みます。
メロディーの特徴
Bメロでは音程こそ違いますが、イントロやAメロをモチーフとした譜割りのメロディーになっていることがわかります。
ひとつのモチーフが元になって繰り返されていることで、より覚えやすく癖になる楽曲になっていると感じます。
Aメロ2
Eマイナーキーから、再び同主長調のEメジャーキーへと帰ってきます。
メロディーの特徴
Aメロに比べて同音の続く、動きの少ないメロディーになっています。
Bメロとの対比で、Aメロ2がより優しく、落ち着いて聴こえるように感じます。
6小節目から音程が上がり下がりが激しくなり、8小節目ではBメロ2に向けてフェイクをかましています。
Bメロ2
再びEマイナーキーへ。
メロディの特徴
一回目のBメロにはなかった、コーラスによるクールな対旋律が楽曲をどんどん盛り上げていきます。
間奏
スキャットで自由自在に歌い上げる、楽曲中一番の見せ所とも言えるパート。
メロディーの特徴
2小節目のG♯m7ではソ♯→ソ→ファ♯と、半音ずつ下降するブルージーなメロディーになっています。
3小節目のF♯m7の上でも♭9th(ソ)の音を使っているのが特徴的です。
1小節目・5小節目のEM7ではM3rdから始まりM3rdに着地するメロディーになっている為、藤井風さんの囁くような歌い方も相まって優しさや穏やかさを感じますが、
随所にブルーノートを織り交ぜることによって、どこか哀愁を感じ取れるジャジーなフレーズとなっています。
Bメロ3
メロディーの特徴
今までのBメロのメロディを1オクターヴ上で歌っている、最も感情的なパート。
最後の4小節では、コーラスによる対旋律も1オクターヴ上を歌っており、盛り上がりは最高潮に達します。
Aメロ3
Bメロ3から燃え尽きたように一気に落ち着くパート。
最後はD7(9)で煮え切らないような、なんともいえない余韻を残したまま終わります。