空前のバンドブームを起こしたアニメ「けいおん」
今もカラオケで歌われたり学園祭で演奏されたり。そのムーブメントの名残を感じる機会も少ないでしょう。
今回はその中から、エンディング曲の「No Thank you」を分析していきます。
ロックな要素、ガールズバンドならではのカッコよさが際立った一曲ですね。
放課後ティータイム名義の楽曲は絶大な人気を博し、担当した声優を起用しリアル版の放課後ティータイムとしてライブが行われるほどでした。
全体を通して
割とテクニカルな演奏の多い放課後ティータイムの楽曲ですが、この曲においては比較的シンプルな演奏になっています。
テクニックに固執せず、疾走感という面でロックな雰囲気を存分に醸し出しています。
意図的にコピーしやすい演奏にされているのかもしれませんね。
全体的には単調な印象を受けますが、随所に飽きさせないための工夫がちりばめられており最後まで心地よく聞いていられます。
イントロは歪んだギターのスピード感のあるリフが印象的ですね。
主音から3度下の音でハモっているフレーズで、すべてダウンピッキングで弾くとこの曲のリズム感が表現しやすくなります。
Aメロ:コードの意味
キーはEmであるのに対しAメジャーコードが含まれているのが特徴的です。
ダイアトニックコードという概念で考えると不自然なコードではありますが、不思議と気持ち悪くは感じませんね。
Emのダイアトニックコード
これはEメジャーキーからコードを借りてきていると考えるべきでしょう。
(こういった技法をモーダルインターチェンジ。借りてきたコードを借用和音と言ったりします。)
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Aコードの部分ではギターとベースのユニゾンフレーズが特徴的ですが、これもEメジャー(Eから見た3度(G#)の音が使われている)的なフレーズですね。
単純なEmキーの曲よりも爽快感のある明るさを感じられますね。
Bメロ
Bメロでも引き続きAメジャー系のコードが使われていますが、ここでは『A7』が使われています。
これもノンダイアトニックコードですね!
今回は、Eドリアンスケールからの借用和音と言えます。
このコードの裏でなっているギターのフレーズも、Aから見た短7度(G)と長3度(C#)の音が特徴的です。
Aセブンス的フレーズとも、Eドリアン的フレーズとも言えます。
ドリアンスケールのような『モード』と言われるものはジャズなんかでよく使われたりしますが、ドリアンに至ってはロックの世界でも頻繁に利用されます。
あのスティーブ・ルカサーやポール・ギルバートなんかも使っていますね!
サビ
サビは一見シンプルな進行に思えます。
4小節のコード進行をループする形かと思いきや、実は毎回コードが変わっています。
終止キーもテンポも変わらない曲であるからこそ、随所にこうした飽きさせないための工夫が施されているのでしょう。
この曲の売りであるスピード感は守りつつ、様々な変化を楽しめる。
コード進行で物語の奥行が表現されているように思います。
例えば『LEMON/米津 玄師』でも同じように、サビが4小節のループでなく少しずつ違ったコードに変えられています。
Cメロ:突然のムードチェンジ
2サビ終わりからの突然のムードチェンジ
2番のサビが終わると、ガラッとムードがチェンジします。
落ち着きがあり、切なさを感じさせるセクションです。
まずは、ここの切り替わりのコードに注目してみましょう。
ムードチェンジとなるきっかけに使われている『FM7』。
これも借用和音という解釈ができ、Eフリジアンスケールから『♭ⅡM7』にあたるコードといえます。
『FM7』はキーCから見た『ⅣM7』ともとらえられるので、自然な流れで『CM7』に移動することができます。
間奏からBメロへの着地
間奏部分は全員がハードに弾ききっている(この主張が激しい)印象がありますが、Bメロへの着地部分でまとまりを取り戻し綺麗に着地します。
この部分のコード進行は『D→G→C→F』と4度上のコードに移り変わる強進行のみで構成されています。
ギターのフレーズも各コードの『1→3→5度』をなぞるシンプルなフレーズですが、『EとD』のノンダイアトニックコードがあるだけでテクニカルなフレーズに聞こえますね。
最も自然なコード進行である強進行を利用して、荒々しかった演奏に秩序とまとまりを。聴者を「はッ」とさせ、Bメロへの注目を高めるきっかけを作り出しているのでしょうか。
Cメロに入るきっかけとなる『FM7』。
間奏への導入となる『Cメロ』。
間奏からBメロへ着地する『強進行』。
Aメロ・Bメロ・サビがあくまでも本筋で、別パートを明確に区別することで、その本筋を引き立てる役割に置いているのでしょうか。
強烈な引き立て役ですね。
間奏後のBメロから、聴者も少し落ち着いて聞き入れる状態になっているのではないでしょうか。