アニメ「けいおん!」でお馴染み、放課後ティータイムより、『私の恋はホッチキス』のコード進行分析をしていきます。
全体を通して
ギター・ベース共に歪んでいて、ドラムもパワフルで迫力があります。
イントロも印象的で、ライブ映えしそうなロックな曲調ですね。
テーマは、片思いでしょうか。
複雑なコード進行ではありませんが、随所に「片思いの様子」を感じさせるような工夫を感じられました。
イントロから順に解説していきます。
イントロ
1~4小節目【B♭M7→F】
キーFのダイアトニックコードでは、Fが一番目(I)のトニックコード、B♭が4番目(IV)のサブドミナントコードです。
今回の『B♭M7→F』のような『IV→I』の進行は、アーメン終止と呼ばれています。
IV(サブドミナント)にある叙情的(エモーショナル)な雰囲気から、安定的なトニックへの進行には、エモーショナルな雰囲気を感じます。
5~8小節目【B♭M7→Gm7/C】
『Gm7/C』はドミナントの役割があるため、次にFへ進行することを予感させます。
ただし、単純な『C』よりはドミナント感が薄く、Fへの解決感も薄れます。
このコードタイプは、おしゃれな楽曲でよく使われます。
力強い解決力がな分クールな印象を感じます。
Csus4のような響きをするんだ!
Aメロ
イントロに比べ、ピアノの伴奏がなくなり少し落ち着いた印象に。
メロディーを見ても、音数の少ない下行メロディーが中心で落ち着きを感じます。
それでも、バッキングとドラムのリズムが心地いい速度感を感じさせます。
1~2小節目【F→Gm(omit5)→Am(omit5)】
omitは「その音を省略して」という指定です。
omit5なら5度の音を抜いた1度3度の和音で演奏をします。
『F→Gm(omit5)→Am(omit5)』としていますが、Fが主のコードであとはオブリ的に入れられています。
オブリ(オブリガート)を簡単に説明すると、合いの手のようなものです。
1~2小節のメロディーを見てもFコードの構成音である「ファ・ラ・ド」のみで構成されています。
ドラム・ベース・ギターと演奏が重なるかっこいい箇所なので無いことにはできませんが、要は1~2小節はFコードを意識しています。
3~4小節目【C→A】
『A』はキーFのダイアトニックコード上に出てこないコードです。
このコードは、次(5小節)のDmを一時的なトニックと見立て、本来Amのコードをドミナントコードとしたものです。
これをセカンダリードミナントと言います。
この一瞬だけはDmキーの雰囲気が漂うため、暗い印象を感じさせます。
5~8小節目【Dm→C→B♭→C】
ここでは、『Dm→C→B♭』とコードしていくコード進行に、前半に比べ尻すぼみで下行していくメロディーが重なっています。
落ち込んでいるような、少し憂鬱な様子まで感じさせます。
Bメロ
Bメロでは、バッキング、ドラムのリズムが緩まります。
Aメロにあった軽快さはなくなり、主人公が歩く速度を弱めたような雰囲気が感じられます。
1~4小節目【B♭→C/B♭→A→D】
この進行の土台には、王道進行が使われています。
本来王道進行であれば、『B♭→C→Am→Dm』という進行になりますが、アレンジされています。
分解して解説していきます。
B♭→C/B♭
まず初めの『B♭→C/B♭』の進行は、ベース音だけをB♭に留まらせたアレンジです。
コードの土台となるベースがとどまっているので、動きが少ない落ち着いた進行になります。
Aメロ→Bメロのバッキング変化にもマッチしています。
A
『A』はAメロでも出てきたセカンダリードミナントです。
Bメロで生まれた落ち着き、速度の緩みに緊張感が走り抜ける印象です。
D
これまではDmが使われていましたが、『D』が出てきました。
これはVIm(キーDmとしてみればIm)の3度の音が上がったコードで、Dmのラの音が半音上がった形です。
こうした終止を、ピカルディ終止と呼んだりします。
ここでも緊張感は感じますが、『A』で感じた暗さをはねのける、これまでにない明るさを感じます。
サビ
5〜8小節目【F→Am→Dm→C】
B♭からベースが降っていく進行です。
B♭からGmの間は、Amを差し込んでも自然ですが、あえて『F/A』としています。
このコードはFの第一転回系です。Amよりも、明るい雰囲気となります。
10小節目【C→A/C#】
『A/C#』は、これまでにも出てきたセカンダリードミナント『A』の第一転回系です。
『A/C#』の場合、Aの長3度ド#の音がベースに来ています。
12小節目【E♭】
『E♭』は、キーFのダイアトニックコードにはありません。
このコードは、一時的にキーFmから借りてきたコードと考えられます。
こうした元のキーで以外のところからコードなどを借りてくる手法をモーダルインターチェンジといいます。
13〜16小節目【Gm→F/A→B♭→C】
サビを8小節一塊のセクションと捉えれば、13〜16小節目は、前述の5〜8小節目に相対する部分となります。
5〜8小節目がB♭から降っていく進行だったのに対し、13〜16小節目はGmから上がっていく進行になっています。
5〜8小節目にあった落ち着いた感じではなく、迫ってくるような、込み上がる力強さを感じます。
10小節目でつけた緊張感と相まって、一層のクライマックス感を演出しています。
間奏1(1サビ終わり)
このセクションには、サビの高まりを鎮め、Aメロの温度感に上手く繋いでいく役割があります。
土台はAメロでも触れた王道進行でできています。少し切なさを感じるコード進行ですが、Aメロへ向けて徐々にテンションが上がっていく様に、前向きな印象を感じます。
4小節目【F→Gm→G#dim→F/A】
この部分は、FからB♭への動きを滑らかにする進行です。
コードのルート音を見ても分かるように、FかB♭かけて上昇していく進行をとっています。
『G#dim』はパッシングディミニッシュと言われるコードで、前のコードと次のコードをつなぐ経過音的に働きます。そのため、進行がスムーズになります。
間奏2(2サビ終わり)
E♭、D♭は、いずれもキーFmから持ってきたコードです。
メジャーキーの中で現れるマイナーキー由来のコードですので、メジャーコードでも若干暗く、そこにロックな印象を感じます。
またノンダイアトニックコード から始まるため、まったく違うセクションが始まった「驚き」を与えられます。