夏の午後はコバルトは、テレビドラマ『彼女はキレイだった』のために書き下ろされた一曲です。
楽しげで爽やかさな一曲で、夏を強く感じる一曲ですね。
コード進行から、作曲の意図を考えていきましょう。
全体を通して
スタッカートやシンコペーションが目立つ、リズミカルな伴奏です。
16分の4つ打ちも相まって程よい疾走感があり、軽快に歩いているイメージが付きます。
奥行のある複雑なコードも多く、おしゃれな雰囲気も漂っています。
ブルージーなコードもあったいりと、大人視点の夏模様を表現しているように。
Aメロにおいては、マイナーコードが一つもない明るく爽快感のあるコード進行です。
Bメロでは下属調(サブドミナントの調)に転調していたりと、見どころ満載です。
イントロのコード進行
1小節目【A7→A7/C#】
通常のメジャースケールであれば、『A』か『AM7』が使われそうですが『A7』となっています。
『A7』はブルージーな表現をしたいときによく使われます。
Aミクソリディアンモードからのモーダルインターチェンジと考えることもできます。
モーダルインターチェンジとは、普段扱う長調や短調とは違う『モード』という世界からコードを借用してくる技法です。
詳しくは、モーダルインターチェンジとはをご覧ください。
『A7/C#』は、A7の第1転回系で、分数コードやオンコードと言われるコードです。
2小節目【D#9-5omit3】
『D#9-5omit3』(#Ⅳ7)は、一般的に見れば裏コードとして登場することが多いですが、今回でいえばサブドミナントマイナー的に使われているようです。
サブドミナントマイナーは、その名の通り『サブドミナントがマイナー』になったものです。
Aメジャーキーで言えばDm(Dm7)が該当します。
このコードをサブドミナントマイナーたらしめるポイントは、Aから見て短6度(F)の音が入っているかどうかです。
そのため、Fを含むコードをサブドミナントマイナーの代理と考えることができます。
『D#9-5omit3』はDm7と共通する音が2つもあるね!
コード | 構成音 |
---|---|
Dm7 | D,F,A,C |
D#9-5omit3 | D#,,A,C#,E#(F) |
G9も同じくサブドミナントマイナーと解釈できるから、やはりサブドミナントマイナーが意識されているね。
4小節目【D/E】
『D/E』は、上に乗るコードがDとなっていますが、『Esus4(9)』と言い換えることができます。
E7系のコードなので、ドミナントとしての役割があり、Aへと自然に進行します。
通常のE7ほど解決感はありませんが、少しふわっとしたニュアンスでおしゃれな楽曲によく合います。
Aメロのコード進行
4小節目【G9】
『G9』はG7に9の音が乗っかった形です。
イントロ4小節目でも解説しましたが、Aから見て短6度の音を含むG7はサブドミナントマイナーと解釈できます。
8小節目【F#7(♭13)】
キーAの上での『F#7(♭13)』は、Ⅱm7である Bm7を一時的なトニックと見立てたセカンダリードミナント解釈することが多いですが、ここでは例外のようです。
というのも、次のBメロ1小節目からは、キーDへと転調しています。
であれば、「このコードが転調のきっかけとなっている」と考えるのが自然です。
キーD上での『F#7(♭13)』は、Dの並行短調『Bm』に対するドミナントコードです。
実際には、Bmに進まないため偽終止と呼ばれる進行ですが、キーBm(D)の色を強めて転調のきっかけとしているようです。
Bメロのコード進行
ここからキーDへ転調しています。
転調のきっかけである「Aメロ8小節目」と「Bメロ5小節目までの進行」を見るとBmキー(Dの並行短調)にも感じますが、最終的にDへ向かう動きとなっているのでキーはDとします。
1~2小節目【GM7→F#7(♭13)→Bm7】
『GM7→F#7(♭13)→Bm7』は、丸の内サディスティックやjust the two of usで有名な『Ⅳ→Ⅲ7→Ⅵm』進行です。
詳しくは、『just the two of us進行とは?』で解説いたします。
F#がBmに対するセカンダリードミナントですので、Bmキーとしての雰囲気が強い暗い進行です。
3小節目【E7/G#】
『E7/G#』は、E7の第一転回系で、コードトーンのうち長3度のG#がルートとなっています。
要はE7 のコードなのですが、E7(Ⅱ7)はダブルドミナント(ドッペルドミナント)と呼ばれたします。
キーDのドミナント(A)に対するドミナントのことを指します。
実際にはAへと進行せずに、GM7(Ⅳ)へと進行します。
第1転回系となり、ベースがG#となることで、GM7への進行もスムーズになります。
それもあって以外にスムーズに進行してくよ!
コード | 構成音 |
---|---|
E7 | E,G#,B,D |
GM7 | G,B,D,F |
サビのコード進行
1~2小節目【D→Daug/A#→D6/B→D7omit5/C】
一見複雑な進行ですが、Dコードの完全5度(A)の音を半音づつ上げていく進行です。
こうしたコード構成音の一部を半音、または全音づつ動かしていくことをクリシェと言います。
ここでは、変化させた5度をベース音において、ベースラインもクリシェしています。
2小節目3拍目で到達する『D7omit5/C』は、次のGM7に対するセカンダリードミナントとして機能しています。
3~4小節目【GM7→F#/A#→Bm7】
『GM7→F#/A#→Bm7』を切り取ると、Bメロ1~2小節目でも解説したjust two of us進行をしているため、暗い雰囲気があります。
6小節目【Am7→D7】
『Am7→D7』は、7小節目のGM7を一時的なトニックとみたててツーファイブワンのモーションをとっていると考えることができます。
キーGからみたⅡm7が『Am7』、V7が『D7』です。
D7をセカンダリードミナント。
そこへ向かうAm7をリレイテッドⅡmとよびます。
7小節目~8小節目【G#m7-5→GM7→F#m7→F7(13)】
ルート音が半音づつ下行していく進行です。
『G#m7-5』は、GM7のベース音を半音上げたコードです。
トニックの代理コードとされることがありますが、ここで言えばGM7のルートが半音で変化しているだけなので、ベースラインクリシェと考えることができます。
『F7(13)』は、次のEm7を一時てきなトニックとみたてた場合の裏コードです。
裏コードは、あるコードに対する本来のドミナントコードの代理となるコードです。
#IVから半音づつ下行していく進行といえば、aikoの楽曲が有名です。
例えば、カブトムシのサビでも#Ⅳからの下行が使われています。
ここでは、少し変わったアプローチもされていますので、ぜひ参考までにご覧ください。
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10小節目【F#→Em7→C/D→B6(9)】
このコード進行は、間奏のキーAへと転調するためのアプローチです。
この進行をすべてAを主軸に考えるならば、以下2つのパターンで解釈できます。
- Aフリジアンモードを想定したコード進行
- Aメジャーキーの上で、ノンダイアトニックコードをつかった進行
フリジアンモードの並びに関しては『モーダルインターチェンジ一覧表』をご覧ください。
このコード上でのメロディーがAメジャースケールで収まっているので、『2』の解釈で進めていきます。
F#|(♭Ⅵ)
『F#』は、キーAから見た♭Ⅵに該当するので、サブドミナントマイナーと考えることができます。
Em7|(Ⅴm)
Eはドミナントですが、Emへと変わるとドミナントマイナーといいます。
実は、サブドミナントマイナーは、Aの同主短調(Aマイナー)から借用されているコードですが、ドミナントマイナーも同様にAマイナーからの借用和音です。
間奏(イントロと同じ)1小節目はA7ですので、Em7を加えると、Dへと進むツーファイブワンにも考えられます。
キーDの名残をのこし、転調の違和感を緩和しているのかもしれません。
C/D|(♭Ⅲ)
『C/D』は、単に『C(厳密にはCadd9)』と捉えることも、『Dsus4(9)』と捉えることもできます。
Cとすれば、Aから見た♭Ⅲのコードですので、前2つのコードと同様に、Aマイナーキーからの借用和音です。
こちらの考えのほうが、流れにあっているように思います。
B♭6(9)|(♭Ⅱ)
Aへと半音上からアプローチするコードですが、6thコードでかつ9thが加わっています。
♭Ⅱは裏コードとして使われるパターンと、サブドミナントマイナーとして使われるパターンをよく目にします。
これまでの進行をみても、まずはサブドミナントマイナーの線を考えるべきでしょう。
『B♭6(9)』の構成音と、Dm7(サブドミナントマイナー)の構成音を見比べてみると、ほとんど同じであることがわかります。
ここではサブドミナントマイナー兼、Aへと半音アプローチするコードして使われているようです。
コード | 構成音 |
---|---|
Dm7 | D,F,A,C |
B♭6(9) | B♭,D,F,G,,C |
まとめ
出だしからノンダイアトニックなコードが登場しましたが、非常に親しみやすいサビメロに心が躍る一曲でした。
加えて、JPOPではあまり使われないようなコードが頻出しましたね。
コードを複雑にしても、楽曲が破綻せず、軽やなコード進行となっていました。
音楽力、表現力の高さに、非常に勉強になる一曲でした。