数々のアーティストからもカバーされる名曲エイリアンズ。ジャジーなコード進行も魅力的でハイレベル、ハイセンスな楽曲です。
どんな意図で作曲されているのか、コード進行から紐解いていきましょう!
全体を通して
ジャジーなコード進行が多用されており、複雑な響きと深み、またアコースティックギターの音色もあってか、ノスタルジーな雰囲気を感じさせます。
さまざまな箇所でドミナントモーションが見られますが、マイナーコードへ向かうaug7や裏コードなどが多く怪しげな不安定さを生み出しています。
反対に、サビは比較的素直な進行で、地に足がついたような安心感があるセクションです。
そこの差分からも希望的な様子が感じられます。
イントロ
1〜4小節目
この部分は、original loveの接吻でも使われていた進行です。
最初3小節は、丸の内進行や、just two of us進行と言われるⅣ→Ⅲ7→Ⅵmの進行です。
aug7は、ドミナントセブンスの代わりに使われているので、次のA#7と役割は同じです。
メジャーキーと仮定してディグリー分析しているので、ここはセカンダリードミナントとしています。
4小節目(G#7(13)→G#7)
このコードは、本来Ⅴ(C#)は進むはずのセカンダリードミナントです。
ただし、ここでは偽終止となっており、C#に進まず、Ⅳ(BM7)へ進行します。
6小節目(C#sus4/A#→A#aug7)
C#sus4/A#は、ほとんどAm7(♭13)に近しいコードですが、構成音の5thと♭13thが半音でぶつかってしまうのでこの形になっています。
Am7omit5(♭13)でもいいわけです。
A#aug7はこれまで通り、セカンダリードミナントとして使われています。
7〜8小節目(D#m9→E9)
E9はD#m9へ向かう裏コードと呼ばれるものです。
裏コードは、トニックと見立ててるコード(ここでいうD#m9)に対するドミナントセブンス(A#7)の、代理となるコードです。
これはE9が、A#7の構成音3rd(D),7th(G#)を、含むセブンスコードであるから成立します。
セブンスコードの3rdと7thは、トライトーンという非常に不安定な響きの関係にあります。これがトニックへ解決したい力を生むわけですが、裏コードも同じトライトーンを含むので、同じトニックに自然に解決することができるのです。
Aメロ
3小節目(D#m7→F#7/C#→BM7)
ベース音は、D#→C#→Bとスムーズに全音づつの下行をとっています。
ここでのF#7/C#は、次のBM7を一時的なトニックと見立てドミナントの形に変換させたものです。
いわゆるセカンダリードミナントです。
4小節目(A#m7→A7→G#m7)
ルートは半音づつの下行をとっています。
A#m7とG#m7を繋ぐA7は裏コードです。
G#m7のドミナントであるD7の代理となるコードで、同じようにG#m7に進みたくなる不安定な響きのあるコードです。
11〜12小節目(A#m7/D#→D#7)
ここ二つのコードは、いずれも次にくるG#m7を想定したドミナント的な立ち位置にあります。要はセカンダリードミナントです。
『A#m7/D#』は、D#7sus4(9)と言い換えることができ、ドミナント的によく使われます。
この形はsus4系オンコード(ハイブリッドコード)と言って、ドミナントの代わりとしてよく用いられているよ。
例えば、official髭男dismの楽曲には頻繁に用いられてる!
『D#7』は、G#m7に対するドミナントコードに値するので、そのままセカンダリードミナントです。
Bメロ
2小節目(BmM7→B/C#)
BmM7は一般的にサブドミナントマイナーと言われるコードで、ⅣがⅣmになった形です。
同主短調(Fマイナー)からのモーダルインターチェンジとも言えます。
mMとなっているので、Cハーモニックメジャーからの借用とも考えることができます。
そのままサブドミナントマイナーと表現されることが多いでしょう。
このままトニックのF#へと進むと自然ですが、実際はA#m7へと進んでいきます。
3~4小節目(A#m7→C#m7→C#/D#→D#7)
『C#m7』は、ドミナントがマイナーの形になっているので、ドミナントマイナーと呼ばれます。
このコードも、F#マイナーキーからの借りてきたコード(モーダルインターチェンジ的に)と考えることができます。
ルートと全音下のメジャーコードを合わせると、『7sus4』コードになるのです。
ここも、要は4度上のG#に対するセカンダリードミナントドミナントと考えられます。
ただし、ここからG#には進まず、次はCm7-5に進みます。
- G#7:G#,B,#(C),D#,F#
- Cm7-5:C,Eb(D#),G♭(F#),B♭(A#)
5~7小節目(Cm7-5→F7→A#m7)
『Cm7→F7→A#m7』は、マイナーツーファイブワンの進行です。
A#m7を一時的なトニックとみたてて、マイナーの形のツーファイブワンをとっています。
そのためF7は、セカンダリードミナントになります。
F7がⅤ7であるならば、C#m7はⅡm7-5にあたるので、リレイテッドⅡmになります。
7~8小節目(A#m7→Adim7omit5(♭13)→G#m7→A#7)
『Adim7omit5(♭13)』と長ったらしく、回りくどいコードで表現させてもらったのは、このコードがパッシングディミニッシュの可能性があるからです。
パッシングディミニッシュは、全音間の2つのコードの間に差し込むことができるディミニッシュコードです。
今回の場合でいうとA#m7とG#m7をスムーズに繋げる役割として機能しています。
ただし減5度のサウンドが不必要なので、omitとして除外しています。
サビ
1〜4小節目(BM7→C#7/B→A#m7→D#m7)
前半4小節は、王道進行の形をとっています。
ディグリー表記で言えば、『Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm』の進行です。
ただし、ベース音がBで停滞しているのが特徴的です。
5〜7小節目(Fm7→A#7→D#m7)
『Fm7→A#7』は、次のD#m7へのメジャーツーファイブのアプローチです。
通常、Fm7-5としてマイナーツーファイブを取るべきところではありますが、あえてFm7を使用しています。
8小節目(F#7)
『F#7』は、次のBM7へのセカンダリードミナントです。
14〜15小節目(A#7→BM7)
『A#7』はD#m7へ向かうセカンダリードミナントですが、BM7へと進行しています。
ですので、偽終止という進行になります。
まとめ
緻密に作り上げられた世界観に、強い没入感を感じました。
コード進行それぞれに意図があるように感じ、感性だけで単純に作られた楽曲でないことがわかります。