TBSテレビ金曜ドラマ『MIU404』の主題歌となった米津玄師の感電。
テンションコードやクロマチック動きに多彩な音色が魅力で、大人なサウンドにのめりこんでしまいますね。
コード進行を軸に、作曲の意図をひも解いていきましょう。
全体を通して
スウィングしたビートとBPM103の速度感から、軽く踊りながら歩いているような様子を感じました。
タイトでファンキーなリズム、カッティングに充実したブラスセクション。
4小節だけでも十分にドラマチックなコード進行とあいまって、非常に大人的で、クールな印象ですね。
イントロ
1~2小節目(C#m7(9)→D#m7→G#m7)
キーがG#m7ですので、サブドミナント『C#m7(9)』→ドミナント『D#m7』→トニック『G#m7』と進む自然な進行であることがわかります。
C#m7のテンション9thの音は、この3コードの中で常に共通している音です。
そのため、音の変化小さく抑えられ、変化が激しくなく落ち着いたように聞こえます。
2~3小節目(B7→Fm7-5→EM7)
『B7』はセカンダリードミナントと解釈することができます。
これは、4度上のコードへの動きに強制力をうみだすためにドミナント化されたコードです。
とみると、B7は『EM7』を想定しているはずなのですが、実際は一つコードを挟んでいます。
ここでの『Fm7-5』は、経過和音的に使われているようで、EM7のベース音だけを半音上げた形がこのコードとなります。
4小節目(A#m7-5→D#7)
『A#m7-5→D#7』は5小節目、G#m7に向けたマイナーツーファイブのコードです。
先ほどの半音の下降や、こうしたツーファイブの動きもジャジーな響きがして、大人っぽさがより増したように聴こえます。
8小節目(D#7(#9))
先ほどの4小節目に相当する部分ですが、ここではD#7(#9)一発になっています。
次は、Aメロへと移り変わっていくために、「ため感」を演出しているのだと思います。
4小節目はツーファイブがあることで、推進力がつよく自然とG#m7までゴールしていた印象でしたが、ここでは不安定なドミナント7(さらには#9が付加されているもの)が1小節も続くので、次へ早く進みたいそわそわした気持ちも増しますし、フレーズの区切りであると、明確に説明されているようにも感じます。
早く落ち着きたい…
Aメロ
基本的なコード進行はイントロと変わりありませんね。
若干違うポイントを見ていきましょう。
1~2小節目(C#m7(9)→D#7(#9)→G#m7)
イントロではD#m7であった部分が、『D#7(#9)』に代わっています。
メロディーを聴いててもそうですが、フレーズの区切りであることがよくわかります。
8小節目(G#)
いままでG#m7でしたが、ここでは『G#』ふが使われています。
このコードも、BメロC#m7を想定したセカンダリードミナントだといえます。
明るい終止とすることで、「ここで一区切りしたな」「ここから新しい展開が来るのかな」と期待をさせられますね。
Bメロ
6小節目 (G#m7→Gm7→F#m7→B7 )
G#m7の形で、並行移動して半音づつコードを下げています。
『F#m7→B7』は、次の小節の『EM7』へのツーファイブワンアプローチです。
ですので、G#m7から、F#m7にコード進めていかなければいけないことがわかります。
『Gm7』は、それまでの経過和音となっているコードです。
JPOPでも頻繁に見かけるアレンジですね。
7~9小節目(Fm7-5→EM7→D#m7→Ddim7→C#m7→C7(#9))
ここのコード進行をひも解くうえでまず注目するべきは、ベースの動きです。
ここで行われているのはベースクリシェと呼ばれるもので、半音づつさがっていってることがわかりますね。
『Fm7-5→EM7→D#m7』はいままでも見てきたので省略します。
『Ddim7』はパッシングディミニッシュと呼ばれるコードです。
今回でいう、D#とC#の間に経過和音的に差し込むことができるディミニッシュコードです。
『C7(#9)』は裏コードと呼ばれるコードです。
このコードは、G7(13)の代わりとして使うことができるコードで、同じトライトーンを含んでいるため、どちらもにBに自然に解決することができます。
10小節目(B7(13))
完璧に落ち着いたかと思いきや、ここにきて緊張感のあるコードがやってきました。
ここはドミナントコードとしてセブンスコードにしているのではなく、単に終止の位置でセブンスコードの響きを取り入れているだけに感じます。
ジャズでブルースでは、あえてセブンスコードの不安定な響きで曲を終わらせたりするのですが、
個人的には、「次の物語までお楽しみに~!」みたいに言われているようで、陽気さと、次への期待感、少しじらさせているような雰囲気があります。
さんざんジャズチックなコード進行やテンションがあったので、ここでセブンスが来ても「まったくもっておかしい」とはなりません。
逆に不安定な響きが、次の展開を期待させています。
さらに、13thがプラスされているのですが、Bメジャーの13th(G#)の音が入ると、G#mに近い暗さもあり、なんだかすこーし怪しい響きのするコードトなっています。
それを払いのける11小節目のブラスのキメ。
サビへの期待感は一層高まりました。
サビ
サビでも、大きく見ると土台となるコード進行は変わってないようですが、いろいろと変化がありますね。
1小節目(G#m7→C#7)
『C#m7』は、次のF#へ向かうセカンダリードミナントです。
BメジャーのドミナントF#に対するドミナント(ダブルドミナント)になるので明るい響きが得られます。
Ⅵm→Ⅱ7といき、4度進行を繰り返していく動きは、『isn’t she lovely/スティービー・ワンダー』と同じ動きですね。
8小節目(F#→B)
ここでとうとう、『B』に解決します。
9~10小節目(EM7→F#→D#m7→G#m7)
9小節目『EM7→F#→D#m7→G#m7』は王道進行。
『Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm』の動きをとっていますね。
10小節目は、G#m7へと向かうマイナーツーファイブワンです。
11~12小節目(D#m7→B→F#/A#→G#m7)
『D#m7→B』の進行は、ドミナントモーションなどがないため大きな解決感が得られません。
結局、明るいBで止まることなくベースは下降していきG#m7で落ち着きます。
サビでつけた明るい空気感をリセットし、確実なるG#mキーへと戻していきます。
そうして、また間奏、Aメロへと進んでいきます。
Cメロ
非常に不安定で、一見どこをキーとしているのか判別しにくいセクションです。
調性の概念を無視して作られているといえばそれまでですが、何とかこじつけるとするならば、以下のように考えました。
序盤2小節は、Eメジャー(C#マイナー)を想定したコード展開で、Ⅳにあたる『A』に解決するための進行かなと考えました。
ある意味では、G#フリジアンモードともいえるので、曲のキーG#との関連性がうかがえます。
この解釈では、Bm7のメロディー『5,#11,M3』との整合性が取れないのですが、本来Eメジャーのドミナントセブンスであるコードなので、リディアンドミナントスケールあたりを想定していたとすれば、言えなくもないかなと。
それに、このキー展開で考えると、後半2小節目への「移り変わりがスムーズである」といえます。
『前半EメジャーキーのEM7はⅠ』、『後半EメジャーキーEM7はⅣ』と同一コードであるため、ピボットコードになっているといえます。
個人的に、案外スムーズに進行しているように感じていたので、こうした解釈が納得できました。
『感電』コード進行のまとめ
繰り返しが多いコードながら、たった4小節でもドラマチックな表現をしているコード進行でした。
そのまま進行をループさせてもいいものの、いたるところで微妙な変化が見られました。
米津玄師の表現へのこだわりが垣間見えます。
ジャジーなコード進行が主体でしたが、なんともいままでのJPOPの概念を覆すようなセクションも現れました。Cメロの部分です。
普通、僕たちが聞きなれない音楽的アプローチは違和感を感じ、そのままにされがちですが、とうとうこうした高度で前衛的な楽曲も受け入れられ始めたようです。
おいてかれそうで、ちゃんと引き込まれる。
この楽曲だけでなく、これまでの数々の積み上げの中で僕たちの耳がなれ、「すごい」と感じているのでしょう。