毎日音楽を聴いている人であれば、王道進行もまた知らず知らずに毎日聞いているかもしれません。
それほど多様される進行で、超定番の進行とも言えます。
その名の通り、ポップスの『王道』です。
今回は、王道進行がどういった進行か、またどのように使われているのか有名曲を例に解説していきます。
「コード進行」を詳しく理解したい方は、コード進行とは?をご覧ください。
王道進行はどんな進行?
「王道的に使われる進行は?」と聞かれたら、カノン進行や丸の内進行など様々な進行があげられます。
紛らわしいのですが、一般的に「王道進行」と言ったら以下のような一つのコード進行を指しています。
キーCの場合の王道進行は、『F→G→Em→Am』。ディグリー表記にすると『IV→V→IIIm→VIm』となります。
アニソンやJPOP、ロックやR&Bどんなジャンルでもよく使われる王道の進行です。
例えば、キーDのダイアトニックコードは以下の通りなので、『G→A→F#m→Bm』が王道進行となります。
王道進行の特徴
王道進行を前半、後半に分けてみてみましょう。
前半は『IV(サブドミナント)→V(ドミナント)』と進行するため、次にI(トニック)を期待させる明るい進行です。
反対に、後半はVIm(トニック機能)への4度進行が特徴の暗い進行です。
加えて、ドミナントのGから解決をいったん保留してEmへと進行しています。
解決を先延ばしにする焦らしと、マイナートニックへと解決する裏切り感が、物語の深みを感じさせます。
ただ、VImへの進行はドミナントモーションでないため強烈な短調感は感じさせません。
要は、このコード進行がループしているだけの状態では、メジャーキーなのかマイナーキーなのか判別しにくい状態にあります。
そうした、曖昧さにサブドミナントの叙情的な印象が合わさり、なんとも切ない雰囲気まで感じられます。
【アレンジ別】王道進行の使われ方
王道進行は、『IV→V→IIIm→VIm』の形のまま使われることも多いですが、微妙にアレンジを加えている場合もよくあるので、アレンジ別で楽曲例を見ていきましょう。
王道進行とアレンジパターン
- IV→V→IIIm→VIm(王道進行)
- IV→V/IV→IIIm→VIm
- IV→V→III7→VIm
- IV→V→V#dim7→VIm
- IV→V→IIIm→VI
IV→V→IIIm→VIm
ここまで解説してきた純粋な王道進行です。
涙のキッス/サザンオールスターズ
珠玉の名バラードにも王道進行が使われています。
サビのコード進行『F→G→Em7→Am』が王道進行です。
この部分の歌詞「涙のキッスもう一度」と、王道進行の響きでなんとも強い切なさを感じさせます。
ハッピージャムジャム/M.S.J
「しまじろう」でおなじみのハッピージャムジャム。
イントロ・Aメロとのっけからロックなテイストも感じます。心が躍るような楽し気な一曲ですね。
サビのコード進行『D♭→E♭→Cm7→Fm』が王道進行です。
16ビートのグルーヴィーな裏打ちサウンドで、先ほどの『涙のキッス』に比べて高揚感があります。
王道進行部分も、「切ない」「悲しい」というより、感情がじんわりとあふれ出すようなエモさを感じます。
IV→V/IV→IIIm→VIm
王道進行の2番目のコードがオンコードになり、ベースがIVにとどまっています。
エイリアンズ/KIRINJI
スローテンポで、ジャジーなコード進行が光る一曲。
コード進行の複雑さが有名でもある一曲ですが、サビでは王道進行が使われています。
『BM7→C#7/B→A#m7→D#m7』の進行です。
ベースがBでとどまることで、A#m7(IIIm)への進行がスムーズになります。
王道進行では、『IV→V』の後にトニック(I)へ解決しないことで、いい意味での裏切りを演出していましたが、IIImへの進行がスムーズになるため、躍動感は減り落ち着い印象となります。
スローな雰囲気が際立ち、またメロディーへの注意も増す印象です。
IV→V→III7→VIm
王道進行の3つ目のコードがドミナント化した進行です。
III7は、VImに対するセカンダリードミナントなので、VImの暗い印象が増します。
ハッピージャムジャム/M.S.J
通常の王道進行と合わせて使われることも多いので、先ほど通常の王道進行の例であげたハッピージャムジャムのコード進行で見ていきましょう。
下の楽譜は先ほど紹介したサビと同じですが、次の4小節のフレーズまで表示しています。
2段目の『D♭→E♭→C7/E→Fm』のC7/Eがそれです。
『C7/E』はC7の第一転回系で、Eをベースとすることで半音下からFmにアプローチしています。
緊張感が強く、Fmの暗さを際立ち、クライマックスのような雰囲気があります。
同時に、Fmへ強く解決するので、セクションの終盤に向かっている印象もあります。
IV→V→V#dim7→VIm
先ほどは、王道進行の3つ目のコードをセカンダリードミナントに変えた進行でした。
次は、パッシングディミニッシュを使った進行です。
パッシングディミニッシュは、全音で隣あう2つのコードをつなぐディミニッシュコードです。
V#dim7は、III7響きが近しく、同じようにVImへの進行感を強め、解決します。
怪物/YOASOBI
ここまでサビのコード進行の主役として王道進行が使われている例を見ましたが、もう少しさらっと使われている例も見てみましょう。
出だしは、エレクトリックでロックな雰囲気と、抑揚の少ないメロディーにクールさを感じますね。
Bメロの後半で、サビへの導入に当たる『EM7→F#→Gdim7→G#m』でV#dimがさらっと使われています。
ここまでの進行よりも、2小節間のコードの密度が高く、ベースが上行していくことで、緊張感の高まりや速度感の上昇を感じます。
AメロBメロはもともとG#mキーの曲調ですが、一気にダークさが増しています。
ここまで持ち上げといて、Bメロ最後の小節では楽器のブレイクが入ります。とってもクールです。
サビは転調しますので、このセクションはまるで聴者が振り回されているようにも感じます。
IV→V→IIIm→VI
次は王道進行の4番目のコードをメジャーコードにしたアレンジです。
短調の楽曲で、コード進行がVIでひと段落することをピカルディ―終止と言ったりします。
(短調の場合Imと表記するべきでしょうが、ここではメジャートニックをIとして、マイナートニックはVImとしています。)
高嶺の花子さん/back number
王道進行が随所にみられる、エモーショナルな楽曲です。
イントロのペンタトニックフレーズも印象的で、力強さと儚さを感じました。
冒頭イントロのコード進行『Bm→E→C#m7→F#』で早速VIが使われています。
DM7のように4和音で始まる王道進行は、一層切なさを感じます。
最後のF#には王道進行の切なさをカバーし、まだ希望があるような印象があり、じんわりと明るい雰囲気を感じます。
『王道進行』が使われたその他の楽曲
- この夜を止めてよ/JUJU
- 君はロックなんか聴かない/あいみょん
- 三原色/YOASOBI
- みんな空の下/絢香
- カゲロウ/ONE OK ROCK
まとめ
王道進行はシンプルですが、非常に多くの楽曲でその考え方が使われています。
長調、短調のはっきりしない、少し曖昧なコード進行だからこそ、どんなメロディーにもマッチしやすい特徴もあります。
王道進行が持つ切なさ、アレンジすることで生まれる力強さや希望感を上手く使って、あなたの世界観を作り上げましょう。